プーチン暴走の背景にあった「原子力30年紛争」 エネルギーをめぐる、もう1つのウクライナ戦争

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ロスアトムと深い関係にあるのが、フランスのEDF(フランス電力会社)である。そして原子力発電所の発電機を製作するのが、アルストム(ロシアへ蒸気タービン、アラベルを売っている会社である)である。しかしアルストムの発電機部門は、すでにアメリカのGEに買い取られている。アメリカは、フランスの原子力部門を弱体化させるためにあらゆる手を使ってきた(これについては、拙稿「マクロン再選がフランスを憂鬱にさせる理由」を参照)。

そもそもフランスの原子力産業の一部をアメリカに売り飛ばした人物こそ、フランスのマクロン大統領だが、そのマクロンが最近の大統領選挙では、原子力産業をフランス経済復興の重要なカギだと主張し始めていた。アルストムの再買収も視野に入れているという。

独仏とロシアの関係をアメリカが断つ

彼が大統領選を戦っているときにロシアのウクライナ侵攻が起きたが、侵攻前の2022年2月7日にマクロンはプーチンと会談している。フランスのEDFとロシアのロスアトムは原子力発電の開発で深い協力関係にある。このときマクロンは当然、ロシアとフランスの原子力の問題とアメリカとウクライナの原子力発電の開発について議論したはずである。

政治的にはNATOの一員であるフランスはアメリカと行動をともにしなければならないが、原子力発電においてはむしろロシアと深く結びついている。そしてそのアメリカは、ウクライナに関してはフランスの得意分野である原子力発電で結びついているというのである。だから話は複雑である。

皮肉にも、ドイツはノルドストリームでロシアと深く結びつき、フランスは原子力発電でロシアと深く結びついている。大西洋の向こうのアメリカは、その結びつきを、ウクライナを使って破壊しようとしているのである。ウクライナ戦争の原因の1つがこの問題にもあるとすれば、アメリカとEUの関係は今後大きく変わるかもしれない。

以上がこの2冊の内容からいえる分析だが、どんな問題も多面的に見ることを忘れるべきではない。まさにエンデヴェルトの2冊は、私たちにそれを教えてくれるのだ。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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