プーチン暴走の背景にあった「原子力30年紛争」 エネルギーをめぐる、もう1つのウクライナ戦争

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そのブダペストでの合意とは、ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシなどが核を持たないことを確証し、原子力発電設備やその燃料はすべてロシアに依存することを決めた合意であった。これらの国は、ロシアに対して核保有国とならないことで、核拡散防止条約を遵守するというものでもあった。

フランスのジャーナリストであるマルク・エンデヴェルト氏の著書。『ロシア=ウクライナ紛争の裏にある隠された戦争』(左)と『支配されたフランス』。

核爆弾に関してはなるほど、やむをえない処置だったとはいえる。しかし原子力発電に関してもロシアの管理に置くことが意味したのは何かといえば、今後原子力エネルギーに関する問題はすべてロシアによって運営されることを意味していた。そうすると、ウクライナが今後アメリカやフランスなどに原子力発電の協力、例えば新しい発電所の建設などを打診しても、すべてそれは打ち消されるということを意味していた。

これは、ロシアはこの協定によって、ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシのいかなる原子力エネルギーに関する独立も認めないということを意味していた。しかし、これが後々破られたわけである。

ロシアを刺激した欧米の原子力関与

ロシアによる原子力発電の管理はウラニウム原料の供給や核廃棄物の処理などすべてをロシアが行うことを意味しており、いかなる意味でもこれらの国の原子力に関する独立は不可能であった。

しかしアメリカとEUは、この問題に関して当然ながら、新しい原子力発電所の建設、EU内の電気設備に照応した変革を打診してくるわけで、ウクライナ政府のこの問題に関する外交政策は、NATO(北大西洋条約機構)への接近問題と同様にロシアをいたく刺激することになる。

フランスは、エネルギーの多くを原子力に頼っている国である。その限りにおいてフランスは、スリーマイルズ島の原子力発電所の事故以来、長い間原子力に消極的なアメリカとは違い、原子力発電所の開発で最も発展した国といえた。しかし、ウクライナをめぐるフランスとロシアの関係は、その意味で極めて複雑である。

ドイツが天然ガスのパイプラインの建設をロシアと結んだことは、フランスの原子力政策にとってある意味危機であった。フランスの原子力エネルギーのイニシアティブをドイツの天然ガスに持っていかれ、フランスの覇権をドイツに奪われる恐れがあったからである。その意味で、ロシアからドイツに至る天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」計画に対して、アメリカ同様フランスも批判的であった。

しかし、一方でフランスはソ連崩壊以降、原子力分野でロシアと密接に結びついていた。フランスとドイツ、そしてロシアとウクライナはこの問題において極めて複雑な位置にいた。ロシアとウクライナが、ウクライナ東部・ドンバス地域における戦闘の停止について2014年9月に調印した「ミンスク合意」、そして2015年2月の「ミンスク2」は、ドイツとフランスが仲介した。

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