フランスは原発分野でロシアと深い関係をもつが、天然ガスではドイツが深い関係にある。ロシアは原子力に関する既得権益の維持を主張してブダペスト合意の存続を求め、一方でウクライナはそこからの離脱を図る。そしてアメリカがそこに新しい原子力発電の提供者として出現し、フランスの権益を侵し、なおかつドイツのガス供給に対する敵としても登場する。
ウクライナはフランスに次いで電力を原子力に依存する国である。アメリカ、フランス、ウクライナという原子力エネルギーに期待する国と、ロシアのガス、そしてそのガスをウクライナを通過せずにヨーロッパに入れようとするドイツとの間に、大きな敵対関係が生まれていた。
原子力で不安定化した米ロ関係
アメリカは、トランプ政権になって原子力エネルギーの開発にも力を入れ始め、アメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)そしてウェスティングハウスがウクライナに触手を伸ばし、またウクライナのゼレンスキーもそれを望んでいたため、アメリカとロシアの関係はきわめてギクシャクしていた。
ロシア経済にとって、天然ガスも重要だが原子力エネルギーから得られる利益も重要である。アメリカが「ノルドストリーム」を無効にし、なおかつ原子力発電さえも無効にしようと企んでいるとすれば、それはプーチンにとっては大きな打撃となり、怒りの原因となる。
ロシアの原子力会社ロスアトムはロシアの重要な輸出産業の1つで、一方でフランスもアメリカと同様、ウクライナの原子力発電に関心を持っていた。しかし、アメリカはフランスの原子力発電にいい顔はしていない。ドナルド・トランプの娘婿で大統領上級顧問を務めたジャレッド・クシュナーがウクライナの原子力発電と深い関係があり、フランスに譲り渡すことはできなかったからである。
ロスアトムは東欧圏を中心に原子力発電の建設に深くかかわっており、ウクライナへの原料供給を一手に引き受けている。だから、ロシアはアメリカの侵入を快く思っていなかった。
しかし、ウクライナはすでにアメリカのウェスティングハウスの原子力燃料工場を稼働させ、やがて同社は原子力発電所を建設する予定である。2022年2月24日のロシアのウクライナ侵入は、燃料工場が稼働し始めたころにちょうど起きたといわれている。
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