「女子アナ」は"人生の成功者"だという最大の誤解 ドラマ「エルピス」が描く彼女たちの生きづらさ

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このセリフに、女子アナの置かれている状況が集約されている気がした。若くて美しい人形として、局の上層部の考えたことを、その口を通して喋らされている――。花形の職業に見られがちな彼女たちだが、このシーンが象徴するように、彼女たちの局内での立ち位置は意外にもそう高くはない

ニュース番組を担当すると、女子アナがキャスターと呼ばれることもあるが、彼女たちは決してジャーナリストではない。いち会社員であり、局の代弁をさせられている。そんなことを考えさせられるのが、同じ第2話のラストのシーンである。

かつてキャスターを務めていた浅川は「自分があたかも真実かのように伝えたことに、本当の真実がどれだけあったのか……」と悩み始める。そして現在、その苦悩が体調にも表れてきたことに対し、「私には今バチが当たっているんだと思います」と語り、過去の番組内での自分を思い出す。

福島第一原発事故を受けて「問題ありません」と言う専門家に頷く自分。東京オリンピックの招致活動で安倍晋三首相が「原発はコントロール下」とプレゼンする、いわゆる“アンダーコントロール”発言をニュースとして伝える自分。東京五輪開催決定時、福島に行って「被災地の復興にもはずみになる」と笑顔で子どもたちを煽る自分……。

権力の監視がメディアの仕事であるとすれば、女子アナたちがさせられているのは監視ではなく、笑顔での権力容認では――とも思えるシーンだ。ジャーナリストであれば、そこに意見をすることもできるかもしれないが、彼女たちにその権限はない。むしろ、その選択肢を持った人間が、ニュース番組のキャスターとして抜擢される例はほぼ存在しないと言っていいだろう。

入社試験のために「競馬」や「麻雀」を始める就活生

入社試験でも「気になるニュース」程度のことは聞かれるが、そこでも強い問題意識は求められておらず、そこから関連して自分の人となりがわかるような話にすり替えるか、仮に意見を述べるとしてもその意見は強すぎないほうがウケがいい

面接ではニュースに対する知識や関心よりも、立場が上の局員たちにうまく笑顔で話をあわせる力を求められている。それを察知し、そのために、わざわざ競馬や麻雀をやり始める就活生まで出始める始末だ。

アナウンサー試験は、アイドルレベルのルックスを持ちながら「アイドルでは終わりたくない」と考えている女性、ルックスだけではなく、大学まで通ったその知性を少しでも活かした職業につきたいと考えている女性が多く受ける傾向にある。

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