「ザ・トラベルナース」が庶民をスカッとさせる訳 中園ミホが描く医療版「相棒」の"圧倒的爽快感"
第1話をなんとなく見はじめたときは、「トラベル」+「ナース」の意味がピンと来ず期待していなかったのだが、九鬼の言動を追っていくと軸はしっかり見えてくる。権威に庶民が対抗する昔ながらの図式になっているのだ。
その系譜である『ドクターX』は、大病院という権威にすがる医者たちの欺瞞をフリーランスの女性の医者が暴いていくことが痛快だった。それ以前の医療ものは、大病院にはびこる不正に決してなびかない患者ファーストの医者や、庶民の暮らしに寄り添う町医者などの物語が愛されてきた。
それが令和ともなると、ついに看護師が医者自体を乗り越えて、その行いが医療の本質を問いかけることになる。それが『ザ・トラベルナース』。医者は病気を治すことが仕事だが、九鬼いわく「ナースは人を見て人を治す」。つまり、それ以前の病院のあり方を糺さない限り、治るものも治らない。コロナ禍で浮き彫りになった医療現場の厳しい現状を思わせるドラマである。
『ハケンの品格』から変化した「今ドキの働き方」
中園ミホはかつて『ハケンの品格』(2007年/日本テレビ)という、正社員ではない派遣社員の矜持を描いたドラマをヒットさせている。その人気の高さは13年経って第2シリーズができたほど。『ドクターX』はこの『ハケンの品格』の医療版のようなものだったから多くの視聴者に受け入れられたのだろう。
大きな組織の歯車のようになって悪い待遇で働かざるを得ない者たちに味方したドラマを書いてきた中園。
だが大門未知子は人気を得たものの、結局、医者はエリートであり富裕層である。視聴者の多くとは相容れない。庶民である視聴者の気持ちにフィットしようとしたら、医者ではなく、「医者の手下ではない」という考え方の看護師のほうが共感を呼ぶだろう。庶民だって富裕層や政治家たちをさらに潤すために働いているわけではないからだ。
庶民の肌感覚を驚くほどキャッチしている中園ミホ。大門未知子(米倉涼子)が残業や休日出勤などを「いたしません」とはねつけて、適切な報酬を獲得してきたことも爽快ではあったが、今度は、九鬼に働き方改革の逆をいかせる。もちろん働きすぎることはよくないので、九鬼のセリフに疑問を抱く人もいるだろう。
ただ、例えば、昨今、テレビドラマの内容が劣化しているとも言われるのも、働き方改革の影響もあると考えられるように、仕事量を減らすことで質が落ちてしまうこともある。そのためやっぱり働き続けている人もいる。九鬼の言動は、今の日本の構造を表層的でなく根本的に見直すべきという社会の深層にアプローチする必要性を感じさせるのだ。
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