「ザ・トラベルナース」が庶民をスカッとさせる訳 中園ミホが描く医療版「相棒」の"圧倒的爽快感"

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もう1点、令和的な部分は、看護師が男性であることだ。これまでは患者の世話をするのは女性という先入観があった。ドラマの中でも、女性の患者が男性に世話されることに戸惑うこともある。逆に第3回では、男性患者が女性看護師にセクハラをする。あからさまに不快感を表す者もいれば、気にせずやり過ごす者もいる。

那須田はこの状況に苛立ち、場を乱すが、九鬼は淡々としている。ジェンダー平等の観点から言えば、看護師は女性という考え方は改める課題であり、男性が看護師をやる利点もあることに目を向けるべきなのだ。

中井貴一は、身振り口ぶりが優雅で、でも作業はテキパキしていて、頼りがいがある九鬼を好演している。那須田がこのベテランから学び成長していく物語なのだと思う。あくまで主人公は那須田。だじゃれのような名前の「那須田(ナースだ)」なのだ。

映画『ドライブ・マイ・カー』に重要な役で出演し、世界でも注目された岡田将生を名優・中井貴一が支える形になっているが、圧倒的に中井劇場的で、九鬼も単に看護師の鑑というだけではなく、意外な顔を持っていることをちらつかせる。九鬼という迫力ある名前も意味ありげである。もしかして「最強」の意味が別にあるのかもしれない……。

『ザ・トラベルナース』は『相棒』になり得るか

今後、シリーズ化した場合、『相棒』スタイルで、バディがシリーズごとに変わっていくことになるだろうか。そうなったら俳優としての技能も華も併せ持ったベテラン俳優たちが次々出てきて、那須田、あるいは岡田が、虚実皮膜で勉強させてもらうという展開も、シニアと若者の交流が生まれて良いのではないだろうか。

女性看護師役に、寺島しのぶ、安達祐実。ドクターは松平健、菜々緒、柳葉敏郎、浅田美代子などメジャー感のある俳優陣に、恒松祐里、宮本茉由、野呂佳代、泉澤祐希等若手と出演者も豪華だ。

将来を思って若い視聴者を取り戻そうとテレビ業界が焦るあまり、切り捨てられようとされる高齢者たち。とはいえ、パイ的には圧倒的に多い高齢層と少ない若者層とのバランスをどう取るか、『ザ・トラベルナース』はその課題の最適解のひとつと言えるだろう。

高齢層の技術や知恵を継承しないと先細るばかりの今、切り捨てず、共生する社会のドラマとして過不足なく考え抜かれた企画になっている。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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