2022年10月30日午前4時。ソウル市梨泰院地区で発生した圧死事故で犠牲となった46人が安置されたソウル市内の体育館前には、連絡が途絶えた家族を探していた遺族たちの絶叫と嗚咽が続いていた。服を着替える間もなく、寝間着のままで駆けつけた遺族の一部は、「顔だけでも確認できないだろうか」と泣き崩れた。
アン・ヨンソンさん(54)は、ボーイフレンドが軍隊に入隊する前にと一緒に梨泰院へ向かった次女が事故に遭った。アンさんは「娘が息をしなくなって、ボーイフレンドが1時間も心肺蘇生術をしたが、結局、救急隊員が心肺停止と判断して救急車に乗せていったという連絡を受けた。外で遊びたい盛りの若者たちが、大きなイベントでこれほど簡単に死ななければならないのか」と悔しそうに涙を流した。
楽しそうに笑顔で梨泰院に向かった娘の死
アンさんはまた、「経済的に苦しく大学も行かせられなかった娘は、今年20歳になって初めて『ハロウィーンのイベントがおもしろそう』と聞いたと言いながら、楽しそうに家を出ていった。夜には帰ってくると手を振りながら、『5万ウォン(約5000円)だけほしいんだけど……』というのであげたが、これが最後になるとは思わなかった」と力なく肩を落とした。
事故現場で夜通し家族を探した親もいた。3人の犠牲者が安置されたソウル市広津区の病院では、ある犠牲者の夫が身元確認を行った後、「なんでここにいるのか。目を覚ましてくれ、目を覚ましてくれ」と嗚咽し、知人が身体を支えながら病院を後にした。同市鍾路区の病院では、20代の男性が「双子の兄と一緒に梨泰院に行ったが、私だけ生きて戻ってきた」と兄の情報を待っていた。
別の病院では、安置されている娘(25)の遺体を引き取りに来た父親の李さんは10月30日午前1時に娘がなくなったことを聞き、取るものも取りあえず韓国南部・木浦市からソウルまで駆けつけた。ソウルで看護師として働いてきた娘は勤務を終えて友人とともに梨泰院に向かったという。
李さんは木浦市に戻る前に、「マスクを付けずに参加できるハロウィーンだから10万人以上は人が来ることは田舎にいても十分にわかることだったのに、政府とソウル市の対応がとてもお粗末。死者の多くが10~20代の女性という悲惨な事故は、十分に防ぐことができたはずだ」と大声を上げた。
チョン・ヘムンさん(62)は娘のジュヒさん(30)が梨泰院に友人と遊びに行くと聞いたいうのを最後に連絡が途絶え、夜通し娘を探した。ジュヒさんの携帯電話を警察が保管しているとだけ聞いたという。失踪者申告をした後、10月30日午前中は遺体が安置されているすべての病院に電話をかけたが、はっきりした返事を聞けなかった。
10月30日午後1時ごろになって、ジュヒさんの遺体がソウル市郊外の施設に安置されているとの警察からの連絡を受け、微かに抱いていた望みもついえてしまった。
ジュヒさんとは別々に住んでいたが、毎日決まった時間にメッセージをやり取りしていた。チョンさんは「昨日(10月29日)午後5時ごろ、娘に『夕食を一緒に食べよう』と誘ったが、娘は友人と約束があるといって断ってきた。その時、私が強く引き留めておけばこんなことは起きなかったのに……」。