着物の手作りが一般人の想像以上に超繊細な裏側 見た目と機能の両面を実現する希少価値の高い技術

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手つむぎで糸ができると、織る前に糸を先に染めるのですが、柄を出すために絣くくりをおこないます。図面にそって絣模様になる点を、木綿糸によって手作業でくくり、染まらないように防染するのです。この手作業での絣くくりは、くくった部分が間違って染まらないよう、強い力で縛らなければなりません。そのため、絣くくりは当時から今に至るまで男性の仕事です。

そして結城紬では布に織り上げていくとき、地機(じばた)という織り機を使うことも特徴です。地機の特徴は経糸(たていと)の片方は織り機に固定し、もう片方を織り子さんの腰で引っ張ること。織り子さんが織っていない時間は、腰から外して経糸を緩み休ませることができるのです。

地機は、人間が布を織り始めたときの原始的な織り機の原型。現在となっては、少ない手織りの布の中でも、地機が使われるのは10%未満と貴重な織り機で、結城紬の産地では今も使われています。

結城紬にはこうして40もの工程があり、それぞれの職人さんたちが変わらぬ手仕事で結城紬でしかできない着物を作り続けています。結城紬だけでなく、伝統工芸の着物の多くがこのようなたくさんの人の手で作られているのです。

日本各地それぞれの気候風土を生かした技術

伝統工芸は各地にありますが、「この土地の気候風土ではないとできない」というものもいくつもあります。

例えば、鹿児島県奄美大島の大島紬。大島紬は世界一緻密な絹織物であり、泥染を行うことも特徴です。泥染の大島紬はその名の通り、屋外の泥田に絹糸をつけて染めます。先にテーチ木という奄美周辺で自生する木の枝や幹で煮出した染料で20回ほど染め、それを泥田で1回染める、これを4〜5セット繰り返します。こうして100〜120回も染め重ねられた布は、テーチ木のタンニンと泥田の鉄分が反応し、化学染料では出せない、大島紬ならではの独特の黒色に染まります。

おもしろいことに、この泥染めはどこでもできることではないのです。泥といっても、細い絹糸を傷めないよう細かく丸い粒子の泥であることが条件なので、日本国内でも泥染ができるのは奄美大島だけ。まさに奄美大島独特の自然の恵みです。泥染した絹糸は鉄分により「糸が太る」と言われ、通常の絹糸よりもしっとりふんわりした手触りになります。また、泥田で染められることで虫がつきにくい性質も持ちます。

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