過疎/高齢地の「次世代交通」5年で見えた現実解 エボリューション大使として感じる果実と課題

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全長6kmのうち、えちぜん鉄道・永平寺口駅側の周囲4kmが、近助タクシーを新設した志比南地区にあたる。しかし、その近助タクシーの配車システムは、永平寺町MaaS会議で当初検討した各種IT技術を活用したものではなく、前述のようにアナログな方式に落ち着いてしまった。こうした現状が、永平寺町における、新しい地域交通の「現実解」であると表現せざるを得ない。

これまで約5年間にわたり、筆者は永平寺町側の立場として、中央官庁、全国の地方自治体、交通事業関連業界、自動車業界、IT関連など、さまざまな人や組織と、永平寺町の自動運転や近助タクシーに関して意見交換をしてきた。

電動くるまいすを個人購入して、永平寺町でさまざまな体験を試みる筆者(関係者撮影)

そうした中で、自動運転の実証の目的として掲げてきた「技術開発」「環境整備(インフラ、法整備等)」の面では一定の評価がある一方、「社会受容性」という観点での「住民の利便性」「実用化による事業の継続性」に関する捉え方については、視察した関係者から賛否両論があるのが現実だ。

筆者は永平寺町側の立場として、そうしたさまざまな声に真摯に向き合い、それを受けて永平寺町関係者と膝を突き合わせ議論してきた。そのうえで、いまこそ永平寺町での自動運転実証の「これまで」と「これから」について、しっかりと精査するべき時期だと痛感している。

そして、こうした議論こそ、いわゆるバックキャスト(社会実態を見据えた利用者目線)として、地域交通のあるべき姿を深く考えるための全国の指針となることを信じたい。

ここからは、永平寺町での地域交通に関する約5年間の経験をもとに、地域交通に関する議論で重要だと思われる3つのポイントを、筆者個人の見解として紹介したい。

(1)自宅起点の直接移動と“ふれあい”

自家用車移動の割合が高い地方部や中山間地域では、免許を持たない若年者から自主返納した高齢者まで、家族や友人が運転する車に同乗する(=自宅から目的地までドア・トゥ・ドアで移動する)ことが多い。

しかし、公共交通機関を利用するには、自宅からバス停や駅までの移動手段が必要だ。永平寺町での自動運転も事実上、軌道走行のため、乗り場まで行かなくてはならない。

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