過疎/高齢地の「次世代交通」5年で見えた現実解 エボリューション大使として感じる果実と課題

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志比南地区と吉野地区での近助タクシーの出発式を兼ねた式典で、永平寺町の河合永充(かわいひさみつ)町長は、「平成31年度(2018年度)に永平寺町MaaS会議で関係者の皆様と一緒に考えていくなかで生まれた取り組みだ」と、近助タクシーを紹介した。

「近助タクシー」の新規導入での式典。前列左から3人目が、河合永充町長(筆者撮影)

そのうえで「自動運転をきっかけとして、地域交通についての議論が深まり、永平寺町を訪れるさまざまな方のアドバイスを受けながら(施策を)構築していき、地域が主役となり関係者や行政が助け合いの精神によって支えていく形で進化してきた」と、これまでの経緯を振り返った。

式典に同席した筆者としては、永平寺町の未来のまちづくりを町の皆さんと一緒に考える永平寺町エボリューション大使として、そして永平寺町MaaS会議を立ち上げた1人として、自動運転や自家用有償旅客運送など地域のための新しい交通を作り上げることの難しさを実感しているところだ。

そうした、これまで約5年間にわたる筆者の永平寺町での体験をもとに、「現実解」という観点で地域交通のあるべき姿について深掘りしてみたい。

永平寺町と「次世代地域交通」の関係

まずは、永平寺町が「次世代地域交通」に取り組むようになった経緯を紹介しよう。転機となったのは2016年度で、このとき経済産業省・国土交通省の自動運転(自動走行)に関する実証地域の認定を受け、国や県などの助成事業として自動運転車両を走らせた。

自動運転車両は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所が改良したヤマハ製のゴルフカート。廃線となった単線の線路を改修した全長約6kmの遊歩道「永平寺参ロード(えいへいじまいろーど)」を走行路とし、地中に敷かれた電磁誘導線に沿って走行する仕組みだ。

ゴルフカートを流用した永平寺町の自動運転車両。小学生による視察の模様(筆者撮影)

ベースとなる技術は、ゴルフ場などで数多く実用化されており、産業技術総合研究所の関係者は「(基本的な構造としては)枯れた技術だが、コスト抑制で実用化の道を探るもの」と説明する。なお、参ろーどは公道であるが、自動車は走行できず、歩行者や自転車と自動運転車が共有する専用空間という位置付けであった。

また、2018年度には公道では世界初となる、1人が2台を同時に遠隔で制御する“1対2”の方式で走行を始めている。2020年度には、運転の主体がクルマのシステムとなる自動運転レベル2で、1人が3台を同時に遠隔で制御する“1対3”の方式を国内初として実用化した。

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