似たような例はいくつも存在し、具体的には次のような報告がなされています。
○生産性研究の第一人者であるアダム・グラントは、自身が行った研究例を引き合いに出しつつ、世の時間術の大半は、時間の管理ではなく注意力をマネジメントしているケースが多いとコメント。そのうえで「時間術は生産性の解決策にならない」と断言しています。
○社会心理学者のロイ・バウマイスターらが行った実験では、T o D oリストが効果を持つ理由とは、時間を有効に使えるからというよりは、「未完了のタスク」を書き出すことで頭の中が整理され、「何かやり残したことがあるのでは……」や「あの作業を先にしておくべきではないか……」といった無意識の不安感を減らしてくれるからだと結論づけています。
○テキサスクリスチャン大学のアビー・J・シップは、個人の時間観がパフォーマンスに与える影響を調べたうえで、タイムマネジメントを重視することで、いっそう時間が不足しているという認識が生まれ、私たちの人生にとって本当に重要な活動をしなくなってしまう問題を指摘しています。
○テルアビブ大学のチームの調査では、「締め切り」によって生産性がアップする人がいるのは、「努力の機会費用を減らすことができる」からだと報告づけました。締め切りのせいで作業のスピードが上がるのは、期日を決めたおかげで所要時間を逆算できるからではなく、デッドラインの存在が「私には他のことをする時間がない」との認識を強化し、そのせいで「目の前のタスクをひたすらこなすのがもっとも効用が大きい」と判断するようになるのが原因だ、というわけです。
時間をコントロールすることの限界
これらのような結論が出るのは、考えてみれば当然でしょう。1日の長さはみな同じ24時間しかないため、いかにうまくタスクをスケジューリングしようが、いかに必要な時間を正しく見積もろうが、そこにはおのずと限界があります。「タイムマネジメント」という発想そのものが間違いだとは言わないまでも、根本に無理があるのは間違いありません。
たとえば、必要がない会議を減らし、無駄な雑談を切り捨て、タスクの優先度を何度も確かめたうえで、最終的にカレンダーから削除すべきタスクがすべて消えてしまえば、それ以上は打つ手がないはずです。
しかも、ここまで綿密に計画を立てたところで、予定どおりにこなせるとも限らず、その先にはトンネリングや単純緊急性効果などの壁が待ち受けているのだからやりきれません。もともと物理的な時間のコントロールには天井があるのだから、そこからさらに上を目指そうとしたら、時間以外の対象を管理するしかないのは当然です。
著者フォローすると、鈴木 祐さんの最新記事をメールでお知らせします。
著者フォロー
フォローした著者の最新記事が公開されると、メールでお知らせします。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。
すずき ゆう / Yu Suzuki
1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。著書に『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら