96歳で崩御、エリザベス女王の死因「老衰」の意味 医師が解説「持病があってもPPKは叶うもの」

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そして、「老衰」もこの時期に使われ始めた「リバイバル語」であったと思われます。対応する西洋の言葉は「senility」(あえて普通に訳すなら、老化)、あるいは単純に「aging」あたりであったと想像されるものです。老いてだんだんと衰弱していく、まさにその状態をよく反映しています。

死亡診断書の話をしましょう。死亡診断書は、医師が人の臨終を看取ったときに書く書類です。この書類がないと、火葬することも、お葬式を出すこともできません。そして、医師は、死亡診断書を書くにあたり、死の原因をあれこれと医学的に判断し、1つの病名を書く決まりになっています。

仮にもし、その判断の時点で、死亡原因に不審な点があれば、「司法解剖」というものが行われるようになります。このあたりのシーンはテレビドラマなどでご覧になった方も多いのではないでしょうか。

さて、上段の話を裏付けるかのように、厚生労働省は、死亡診断書において、「老衰」という死因の記載を正式に認めています。

<死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。ただし、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入することになります。>

下図はその公式文書ですが、こういう文書にありがちな、素人には少しとっつきにくいものであると思います。要は「ほかに死因として書けるものがなければ老衰を使っていいよ」ということです。

平成30年度版「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」より抜粋

さて、ひと時代を美しくしなやかに導いたエリザベス女王が亡くなったことは、英国民ならず世界の人々を悲しみの淵に追いやります。私とてその例外ではもちろんありません。

女王の死の報に接したときは海外出張の地で同僚(主に欧州人)たちと会食の盛りであったのですが、1人が速報をつかみ、その話は瞬く間にテーブルにいきわたりました。ひとしきり、食卓の話題は女王とその時代に関するものに占められることになったのです。それぞれの人の中にエリザベス女王はありました。大きな位置を占めているといってよい状態でした。

エリザベス女王が君臨した美しい20世紀の終焉が、時を十分に経た今、そして、老衰というかたちであったことに私は深い感慨を禁じ得ません。医学がいかに発展しようが、人の自然な先行きに老衰があるということは変えようがないものであると改めて認識します。老衰とはまさにそういう存在だと私は思うのです。

奥 真也 医療未来学者・医師

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おく しんや / Shinya Oku

1962年大阪府生まれ。医療未来学者、医師、医学博士。経営学修士(MBA)。大阪府立北野高校、東京大学医学部医学科卒。英レスター大学経営大学院修了。東京大学医学部附属病院放射線科に入局後、フランス国立医学研究所に留学、会津大学先端情報科学研究センター教授などを務める。その後、製薬会社、医療機器メーカーなどに勤務。著書に『未来の医療年表』(講談社現代新書)、『医療貧国ニッポン』 (PHP新書)、『人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点』(晶文社)、共著に『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)がある。

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