ロシア併合で激化する「市民への攻撃」悲痛な現場 日本人写真家がとらえたザポリージャの今

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ロシア軍による砲撃で夫を失った女性(左) 9月30日、ウクライナ・ザポリージャ市(写真:筆者撮影)

少し離れたベンチでうずくまっている女性がいた。そばに寄って声をかけると涙をうかべてこう訴えた。

「夫のパシャが亡くなりました。54歳でした。エネルホダルに行こうとしていて……」

ザポリージャ原発がある占領下の町が目的地だったという。女性は知人の男性に連れられ、遺体の確認のため車列のほうに向かった。そして夫の姿を確認したのち、知人の肩に寄りかかった。

20分後、モスクワでプーチン大統領の演説が始まった。

「ドネツク・ルハンスク人民共和国、ザポリージャ・ヘルソンの各州で住民投票が行われました。住民は明確な選択をした。きょう我々はロシアへの併合に関する条約に署名します」

親ロシア派が強行したロシアへの編入を問う「住民投票」は6日間。「87〜99%の賛成で成立した」とされていた。演説の時間は約40分、活字にして2万7千字。「ロシアは私たちと共にあります」と締めくくり、クレムリンの参加者は総立ちで拍手を続けた。

筆者が暮らすザポリージャ州、3割はウクライナ統治

現在、ザポリージャ州の3割ほどの地域はウクライナが統治している。筆者が暮らす州都ザポリージャ市もそうだ。プーチン大統領はその部分についての区別は口にしなかった。住民はどうとらえているのか、聞いてみた。

マリウポリ出身で、ザポリージャ州南部のメルトポリで教師をしていたサッシャ・カバリアンカ(23)。占領地に残っている知人から届く情報を交えて話してくれた。

「占領地で行われた投票は公正ではありません。投票の対価として1万ルーブル(約2万5000円)受け取った、という人もいましたから。もちろん、いま住んでいるこの場所がロシアに併合されたなんて感じることはありません」

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