海面上昇で「沈む島嶼国」リーダー必死の叫び 小国バルバドス宰相の世界銀行・IMF改革案

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バルバドスのミア・モトリー首相(写真:ロイター/アフロ)

本年のアメリカTIME誌「最も影響力のある100人」に選出されたカリブ海の小国バルバドスのミア・モトリー首相の言動から目が離せない。

「20世紀に果たしてきた役割を、21世紀にはもはや果たすことはできない」

9月に行われた国連総会および一連の会議で、彼女は、1944年のブレトンウッズ協定の下で設立された国際通貨基金(IMF)や世界銀行グループといった第2次世界大戦後の国際金融体制に対して「機能不全に陥っている」と痛烈に批判した。

注目すべき発言は、これだけではない。

バルバドスの旧宗主国であるイギリスのグラスゴーで昨年開かれた第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)においても、気候変動の影響を受けている島嶼国を代表して「(気温)2℃上昇の未来は、気候変動に脆弱な国々にとっては”death sentence”(死刑宣告)だ」と、悲鳴にも近い声を上げた。

彼女の発言の根底には、気候変動の原因を作り出してきた先進国への怒りがある。近年増える災害で、先進国よりも甚大な影響を受ける途上国や島嶼国は国民の命を守るためのインフラ整備が差し迫った課題となっている。にもかかわらずIMFは開発資金の拠出に消極的だ。そんなIMFにモトリー氏は、気候変動の責任はいったい誰にあるのか? と疑問を突きつけているのだ。

先進国にこそ島嶼国支援の責任がある

バルバドスはカリブ海の東に浮かぶ珊瑚礁の島国で、約30万人が暮らす。のどかな島国ながら、カリブ海諸国の中では最も議会制民主主義が定着した国として知られる。

クリーンエネルギーにシフトするため、2020年には炭化水素の採掘権を豪英資源大手・BHPグループに売却。バルバドスのような途上国がクリーンエネルギーにシフトするためには一定の資金が必要で、この売却によって必要な原資を獲得した格好だ。

温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」(カーボンニュートラル)と「化石燃料の使用ゼロ」はイコールではない。採掘権の売却はクリーンエネルギー社会とは一見矛盾するようだが、途上国がネットゼロを実現するためには資金調達が必要。炭化水素の採掘権売却はそのための手段にすぎない。

彼女の念頭にあるのは「先進国と島嶼国との間の公平性」だ。気候変動を引き起こした先進国こそが資金を拠出し、債務に苦しむ島嶼国の気候変動への適応を支援するべきであるとする。さもなければ途上国は化石燃料の販売といった手段で資金調達をしなければならなくなる、というのだ。上記はその一形態であろう。

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