海面上昇で「沈む島嶼国」リーダー必死の叫び 小国バルバドス宰相の世界銀行・IMF改革案
モトリー氏の批判は国連安保理にも向かう。9月の国連総会のスピーチでは次のように述べた。
「バイデン大統領が国連安保理改革の必要性を訴えている。改革自体に私たちは賛成だ。しかし、一握りの国だけが持つ拒否権が支配する安保理は現在もなお、われわれを戦火に導き、まさに今年それを目の当たりにしている。安保理改革は単なる組織改革にとどまらず、拒否権の返上まで視野に入れるべきではないか」
モトリー氏をここまで突き動かしているものは何か。7月27日付のニューヨークタイムズ・マガジンは「バルバドスの反乱」というタイトルで、カリブ海諸国は世界的な金融システムと迫り来る気候災害の狭間に立たされており、その出口を見つけだすためにIMFと闘うモトリー氏の姿をルポルタージュで活写。次のように記した。
「グローバルな金融システムは、その国が最も必要としているときに、救済と同時に食い物にもしようとしているのであり、モトリーは、このシステムの罠を何世代にもわたる植民地支配から生まれた根本的な不公平だと考えるようになる。それは侵略者がカリブ海で奴隷の手によって生み出された富を略奪したように、かつての帝国主義国家の投資家は現在、旧領土の資産、市場へのアクセス、融資の利子を搾取しているのだ」
立憲君主制を廃止して共和制へ
実際モトリー氏は、エリザベス女王が健在だった2020年9月、英連邦王国(コモンウェルス)下での立憲君主制を廃止することを表明した。翌2021年11月30日にはチャールズ皇太子(当時)を招き、「奴隷制は歴史の汚点だった」という謝罪とともに祝辞を受けるなど、大きな混乱もなく英国との約400年の植民地時代からの関係に区切りをつけ、共和制への移行を成し遂げている。
前駐バルバドス大使の品田光彦氏は「一国の国体が平和裏に、かつ秩序だって変更された現場に居合わせることができたのは、外交官冥利に尽きる」 と語っている(霞関会サイト)。
モトリー氏は小国の宰相ながら欧米先進諸国が築き上げた戦後秩序に無批判に従うのではなく、問題の本質を捉え、解決に導くプラグマティズムを持ち合わせた政治家と言えるだろう。
ひるがえってわが国はどうか。
今年2月、ロシアのウクライナ侵攻によってわれわれが目にしたのは、国連安保理という戦後レジームが機能不全に陥っている姿だ。日本やドイツといった敗戦国が、国連や世銀・IMFのありかたを変えてゆくために発言すべき絶好のチャンスとも言える。
岸田首相は3月3日の自民党大会で「常任理事国であるロシアの暴挙は、新たな国際秩序の枠組みの必要性を示している」と指摘したうえで国連改革を訴えた。9月20日の国連総会でも、創設以来77年間国連が中心になって形成してきた国際秩序の根本が大きく揺らいでいることを指摘し、「国連自身の機能強化」に向けた安保理改革の交渉開始を訴えた。
米中覇権争いとロシア・ウクライナ戦争で世界は分断の危機にある。大国が覇権争いを繰り広げる狭間で、のたうち回っているのが小国、島嶼国だ。岸田首相はこうした国々に対してこそ「聞く力」を発揮し、全員参加型の国際秩序を構想すべきではないか。それが来年5月に日本がホスト国となるG7広島サミットの成功のカギとなるかもしれない。
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