「英語は決まり文句が8割」を意識すると上達する データ分析で英語の決まり文句の重要性が浮上

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同様に、at largeは「逃走中の、全体として」という意味の定型表現ですが、前置詞atの後に形容詞largeが来ているため、文法的な成り立ちを説明するのは困難です。さらに、I could care less.は「いっこうに平気だ、まったくかまわない」という意味のインフォーマルな表現ですが、I couldn’t care less.と否定文にしても、同じ意味を表します。すなわち、否定文にすると反対の意味になるという一般的なルールが適用されません。

また、kick the bucketは直訳すると「バケツを蹴る」ですが、「死ぬ」という意味の定型表現です。この定型表現は、Jon Snow kicked the bucket in Season 5.(ジョン・スノウはシーズン5で死んだ)のように能動態でしか用いることができません(ジョン・スノウは『ゲーム・オブ・スローンズ』という小説およびテレビドラマの登場人物です)。

The bucket was kicked by Jon Snow in Season 5.と受け身にすると、「ジョンが死んだ」という比喩的な意味は失われ、「シーズン5でジョン・スノウによってバケツが蹴られた」という文字通りの意味になってしまいます。

同様に、shoot the breezeは「おしゃべりをする」という意味のイディオムですが、*The breeze was shot by Jack and Daniel.と受け身にはできません。さらに、beat around the bushは「遠回しに言う」という意味ですが、*beat around the bushesと複数形にしたり、*The bush was beaten around.と受け身にすることはありません。

このように、定型表現の多くは恣意的な制約を持っており、規則で説明できない現象が多くあります。そのため、規則性の探究を目指す言語学の主流の立場とは相いれず、定型表現が研究対象となることはほとんどありませんでした。

母語話者の言葉の多くが実は定型表現

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文法と単語のどちらにも属さない定型表現は、雑多なものとして切り捨てられ、英語教育(=実践)においても、言語学(=理論)においても、長らく軽視されてきました。

しかし、技術が進歩し、大量のテキストをコンピュータで分析できるようになると、書き言葉・話し言葉の多くが、実は定型表現で構成されていることが明らかになってきました。母語話者の書いたり話したりした言葉のうち、5~8割程度が定型表現で構成されているという推計もあります。

スマホの予測変換を使って文章を書いていると、予想外に適切な表現が提案されるので驚いてしまうことがあります。我々の用いる言葉の多くは定型表現で構成されるため、産出された語句の後にどのような語が続くかを高い精度で予測できるのです。

中田 達也 立教大学英語教育研究所所長

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なかた たつや / Tatsuya Nakata

立教大学異文化コミュニケーション学部・異文化コミュニケーション研究科准教授。立教大学英語教育研究所所長。東京大学大学院修士課程修了。ヴィクトリア大学ウェリントンにて博士号(応用言語学)取得。専門は第二言語語彙習得およびコンピュータを使った外国語学習。著作に『英単語学習の科学』(研究社・単著)、『実践例で学ぶ第二言語習得研究に基づく英語指導』(大修館書店・分担執筆)、『朝倉日英対照言語学シリーズ 発展編2 心理言語学』(朝倉書店・分担執筆)、『ミミタン』(学研プラス・共著)、『ワン単』(同・共著)、『TOEIC L&R TEST ベーシックアプローチ』(三修社・共編著)など。

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