食中毒の元凶「アニサキスと戦う男」の壮絶な実験 アジの加工品を作る水産加工会社の試行錯誤

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以降、アニサキス殺虫装置の開発に全力を注ぐことになったジャパンシーフーズと浪平さん。最初に取りかかったのは、必要最小限のエネルギーの量を求めるというものだった。アニサキスを確実に殺し、かつ魚の身のダメージを防ぐ、そのバランスをみる必要があった。

研究室にはジャパンシーフーズから2名の研究員が常駐し、殺虫実験を繰り返した。使ったアニサキスは5万匹。研究員らはアニサキスが本当に感電死したか、この5万匹をひたすらピンセットでつついて確認していった。

対して、浪平さんが課題と考えていたのは、水を使う場で電気を使うという点だ。水は電気を通すので、万が一、人に感電してしまったらアニサキスだけでなく作業員の命も危ない。

「どうやったら安全性を確保できるのか、その辺が苦労しました」

いろいろと考えた結果、電気を流すところを金属板で覆うなどで、解決した。

魚の味に影響が出ないかも慎重にチェック

残る課題は味。せっかくパルスパワーを用いてアニサキスを殺虫しても、魚の味に影響が出てしまえば、商品として販売することは難しい。そこで、人が食べてどう感じるのか、官能テストを実施。

実際に食べてもらって、外観、食感、匂い、みずみずしさ、弾力、魚臭さ、うまみなどを生のアジと比較した。すると幸いなことに遜色なく、冷凍を解凍した製品よりも状態がよいことがわかった。微生物やヒスタミンなどの安全性に関する指標もすべて陰性だった。

2人が出会ってから1年半あまり。ようやくアニサキス殺虫装置の原型が完成した。

大きな冷塩水が入った大きなバケツのような容器 (フィーレ処理槽)のなかに、3枚におろされたアジのフィレ(切り身)が入った樹脂製のカゴを入れ、その上下に金属板を設置。パルスパワーを通すと、アニサキスが感電死する――簡単に説明すると、こんな装置だ。

アニサキス殺虫装置(写真:浪平さん提供)
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