人間は生物であるための機能上、能力上の制限がある。しかし、コンピュータの無限の能力を補えば、人間がその制限を超えることができるというのが、シンギュラリティの真意だ。コンピュータは決して脅威ではなく、人間の能力を拡張するための伴侶であるという考え方だ。カーツワイルは、未来に対してびっくりするほどの楽観的視点の持ち主なのである。
実はカーツワイルが予想してきたのは、AIだけではない。スーパー・コンピュータ、ナノテクノロジー、遺伝学、ロボットと、彼の守備範囲は広い。いわば未来を広く透視するような、特殊な関心と感性を持った人物なのである。
『シンギュラリティ』に先立つ1999年には、人の心を持ったようなコンピュータが可能になるなど、未来のテクノロジーと、それと一緒に生きるわれわれの生活を『The Age of Spiritual Machines』で描いていた。
米国人の理想を体現する人生
アメリカでは「自分自身のドラムビートに乗って生きる」という表現がある。誰の指示にも従わず、どんな社会制度にも牛耳られることなく、自分の関心の赴くままに生きる方法のことだ。カーツワイルはまさにそんな生き方をしてきた人物である。
5歳の時にすでに発明家になろうと決心。高校生の頃には早くも音楽を作曲できるコンピュータ・プログラムを編み出していた。その後は、次々と発明に手をつけてきた。その多くが、現在われわれが恩恵を受けている数々の製品に盛り込まれている。
よく知られているのは、多様なフォントを用いたテキストが読み取れるソフトウェア、フラットベッド・スキャナー、文字を音声で読み上げるソフトウェア、楽器の音を合成するシンセサイザー、音声認識ソフトウェアなど。
その中には、視覚障害者の便宜を図ろうと発明されたものもあれば、ミュージシャンのスティービー・ワンダーのひとことに刺激を受けて作ってしまったものもある。音声認識などは、今でこそわれわれがやっとそのテクノロジーの意味を理解し始めたところだが、カーツワイルは1980年代にすでにその開発に手をつけていた。
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