「ミシンのブラザー」知られざる5段階変身の全貌 基盤技術を横展開、不振事業・失敗例も諦めない

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地域別の売り上げ構成比も「米州31.3%、欧州27.3%、アジア他26.6%、日本は14.8%」(2021年度)とバランスがとれており、カントリーリスクにも対応できる。

ブラザー工業 取締役会長の小池利和氏
取締役会長の小池利和氏。アメリカに23年半駐在したが、日本的な家族経営を掲げる(写真:ブラザー工業、撮影のためマスクを外しています)

だが、ペーパーレス化が加速し、本体機器の販売、トナーやインクなどの消耗品需要など、プリンティングのBtoC(企業対消費者)ビジネスの先行きは厳しい。そこで小池社長時代の2015年には産業用領域の拡大を掲げ、社業の軸足をBtoB(企業対企業)に移した。

「2015年6月にイギリスのドミノプリンティングサイエンシス(以下、ドミノ)を買収しました。ドミノが得意なのは産業用プリントで、ペットボトルや缶、食品の包装などに賞味期限、ロット番号などを刻印するものです」(同氏)

従来の同社とは重複しなかった事業で、上記の刻印事業をコーディング・マーキング機器(C&M分野)として展開。さらに商品パッケージの多品種少量化や短納期化に応えるデジタル印刷機(DP分野)を提供。国内販売会社も設立し、BtoBビジネスが拡大している。

ちなみにドミノ社の買収金額は1890億円(当時の為替レート)と巨額となり、「当時は高すぎると批判を受けました」(同)。現在はドミノ事業の利益で投資額を回収中だ。

ドミノ社のコーティング・マーキング機器とデジタル印刷機
ドミノ社のコーディング・マーキング機器(左)とデジタル印刷機(写真:ブラザー工業)

リーマンショックに耐えた工作機械も順調

ブラザー工業は1960年代以降、ミシン製造で培った基盤技術の横展開で工作機械を商品化。現在は産業機器(マシナリー)事業としてプリンティング事業に次ぐ規模となった。

「産業機器事業の2022年3月期の実績は565億円でしたが、今後は1000億円規模にしたい。EV(電気自動車)関連など、成長が期待できる市場もあります。当社の工作機械は小型で省エネ、競合に比べて低価格という特徴があり、初期投資を抑えたい企業の引き合いが多いのです」

だが、かつて奈落の底に落ちた時期がある。2008年に起きた「リーマンショック」だ。

「各企業が設備投資を見合わせ、工作機械の注文が月に数台というレベルまで落ち込みました。先の見通しはわからず、社内の空気も重かったのですが、市場がなくなることはないだろうと事業撤退は考えませんでした。一方で、当時アルミを用いるスマートフォンが普及し始めており、アルミ加工に強みを持つ当社の工作機械が生かせるのではないか、と」

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