──凡人には理解できないその心境、高山さんは腑に落ちてます?
まあ陽平さんはある種天才だから。正直わからない。わかんないのにわかったようなこと書いてどうすんだ、って思うよね。ただ本に書いた陽平さんの父への絶対的な敬意はすべて正確な記録だから、読者にはそこから考えてもらうしかない。
良一は目立ちたがりの奇矯な人ではあった。みんな、きっとアイツら一族で金儲けしてるに違いない、金持ちだから絶対悪いことしてる、と思ってる。そんなねたみや妄想を大衆迎合主義のジャーナリズムが代弁する。でも、そんなイメージに縛られたままなのはかえってつらくないのか、と僕は思うんですよね。人を色眼鏡で見て、ねたみひがみで矮小化してしまう。自分と同じ地ベタへ落とそうとするんだな。
僕自身は、笹川父子に関する膨大な資料を読み込み、数え切れない人たちに話を聞いて、そういうとらわれから自由になれたことが大きい。
御用作家と思われる可能性をおそれなかった?
──本の後半は、財団改革やハンセン病差別撤廃の国連決議など、陽平氏の活躍譚。正義のヒーロー然と描くことで、御用作家と思われる可能性をおそれなかったのですか?
そう受け取られたって構わないと思いましたね。本当のことを正確に知り書くことができれば、それがいちばんうれしいから。そういう意味では書き切ったという思いですね。
そもそも僕は彼を肯定的に書こうとも、否定的に書こうとも思ってない。ただその人生の話を聞いて、消化して引き受けるってことはある。どういうふうに見られようとそんなことは関係ない。正気でいたかったんですよ。笹川というだけでどっかにブラフがかかってる感じだったので、何とかそこから自由になりたかった。まっさらな目で見たい。もしもこの本をもって御用作家といわれるなら、書けるもんなら書いてみろ、と答えるだけよ。
──「宿命」という言葉を自分に当てはめたのは陽平氏自身?
いや、それは僕。この言葉が降りてきたとき、やっと自分はこの親子の関係をつかんだ気がしたね。笹川良一は自分の運命をそのまま正直に生きた人なんだけど、陽平さんは良一の運命を自分の宿命にしちゃったんだな。生まれる前から背負ってたかのように。
慈善事業に身を投じる神髄とは何ですか、と聞いたことがある。それ、私の口から言わなきゃいけないのかなあ、と言うんだよね。で、それはひたすら無私の精神です、と。僕はこの人は本物だと思った。
彼をそばで見ていると、この世に生を受けた以上、精いっぱいお返ししますという生き方なんだよね。宿命を受け入れる、それが自由の本当の意味じゃないかと思想史家の渡辺京二さんがおっしゃってて、僕はそれを陽平さんに見たんだ。これからも彼の取材は続けます。死ぬとこまで見たいもん。どんなジジイになってくたばるのか、見たいんです。
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