藤井:4月から6月にかけて、内閣官房コロナ室からは質問や分析依頼を本当に数多くいただきました。「こういう想定だとどうなるか?」「別のこういう仮定でシミュレーションしてもらえないか?」といった形で、いろいろな質問や要望をいただきました。
AI-Simプロジェクトに参画している畝見達夫先生(創価大学)、大澤幸生先生(東京大学)、倉橋節也先生(筑波大学)、栗原聡先生(慶應義塾大学)が2月後半からワクチンに関するさまざまな分析をされていましたが、加えて私たちのモデル分析の結果も参考にしたいということだったのだろうと思います。
当時は政府が「1日当たり100万本」という明確な目標を掲げてワクチン接種を強力に推進しようとしていた時期であり、ワクチン接種拡大により感染者数や死亡者数、経済損失がどの程度変わりうるのかについて、非常に関心を持っていたはずです。
――2021年の夏以降、五輪等を経てからはいかがですか。
仲田:7月には私たちもAI-Simプロジェクトに参加し、その中で私たちも含めた複数の参加チームに対して出されるシミュレーションや分析の依頼にお応えするといった形で継続的に協力しています。また、新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下、分科会)メンバーによる勉強会では、「ワクチン接種完了後の世界」という長期見通しや 、8月後半からの感染減少の要因を分析した結果 、「検証レポート」を報告する等、意見交換等を続けています 。
政策現場は何を求めているのか?
―― コロナ禍では不確実で変化の激しい状況が続いています。そうした中で政策を決定し、推進していかなければならない行政や政治家の方々は、特にどんな知見を求めていると感じましたか。
仲田:最も求められていたのは、「今後の感染者数・重症患者数の見通し」です。
藤井:それに加えて、特に西村大臣と内閣官房コロナ室は、感染症対策と社会・経済活動の両立に関する知見を求めていたと思います。この点は、私たちのチームが特に重視していたテーマだったので、問い合わせへの対応や意見交換を頻繁に行いました。議論の中では、かなり具体的な問題意識に基づく質問も多くいただきました。
たとえば、「飲食店に休業要請を出したら見通しはどう変わるのか?」「飲食店への営業時間短縮要請を午後8時までから午後9時までに伸ばしたら感染状況にどんな影響が及ぶか?」、また「飲食店の営業を完全に中止したらどうなるか?」といった内容です。そうした質問の中には、私たちの疫学マクロモデルでは直接答えられないものも当然あるのですが、できるだけモデル分析から得られた知見に基づき、解釈を考えて見通しを示すといった形で対応してきました。