私たち経済学者が「コロナ感染の分析」に挑んだ訳 研究者が政策現場で果たすべき役割は何が重要か

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―― その時期は、1月末のメディア関係者との意見交換会を経て、マスメディアでお2人の分析が大きく報道されるようになった直後ですね。以降、2021年の秋頃までは、度重なる緊急事態宣言の発令と解除、新たな変異株の出現、ワクチン接種の推進、五輪開催等々さまざまな出来事があり、新規感染者数等も激しく変動し続けていた時期でした。政策現場からのコンタクトは増えていったのではないでしょうか。

仲田:4~6月は、特にたくさんの問い合わせや分析依頼をいただきました。3月21日に2度目の緊急事態宣言が解除されるまでは、メディアの方々からの連絡が非常に多かったのですが、宣言解除後からは行政や政治家の方々とのやりとりが増えていきました。

藤井 大輔(以下、藤井):特に内閣官房コロナ室の方々とは、3月後半くらいから頻繁にやりとりをしていました。

仲田:3月下旬には、西村康稔経済再生担当大臣(当時)にモデル分析の結果を直接説明する機会をいただきました。その頃は、国内で変異株(アルファ株)拡大が懸念されていた時期で、変異株の影響を考慮した今後の感染状況や経済被害に関する見通しを説明するとともに、新たに緊急事態宣言を出す場合に考えられる戦略についてもお話ししました。

当時はすでに大阪等で変異株による感染が拡大しており、東京都においてその影響を考慮したシナリオ分析を提示している研究チームが他にあまりなかったこともあって、私たちにお声掛けいただく機会が増えたのだと思います。4月7日には小池百合子東京都知事に説明し、4月8日の東京都のモニタリング会議でも東京での変異株増加が感染者数、死亡者数、経済損失に及ぼす影響について報告しました 。

ワクチン接種の効果を考慮した見通しを提示

――その後も政策現場とのやりとりは続きましたか。

仲田:はい。4月には加藤勝信官房長官(当時)にも私たちの分析を説明する機会をいただき、5月8日には官邸で菅義偉首相(当時)にワクチン接種率が感染と経済の見通しにどういった影響を与えるのかに関する分析についてお話ししました。

5、6月には五輪開催に関する定量分析を公表しました。そして、五輪の大会組織委員会の専門家会議で3回ほど、私たちの分析結果を発表しました。6月には、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(以下、アドバイザリーボード)でも何度か報告する機会をいただきました。

――その頃の政府の大きな関心事の1つは、ワクチン接種推進とその効果ですね。

仲田:はい。私たちは、分析を毎週公表し始めた1月からワクチン接種の効果を考慮した見通しを立てており、振り返ってみるとその当時はそういった分析が他の研究チームからはほとんど提示されていませんでした。2月下旬からは内閣官房COVID-19 AI・シミュレーション(以下、AI-Sim)プロジェクトのチームが政策含意の高いワクチン戦略に関する分析を提示し始めます。

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