「穴を掘って埋める」ケインズ主義批判の大誤解 貨幣なき物々交換を想定している主流派経済学

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というのも、人々は、将来に不安があると、お金を持っておこうと思って、商品を買うのを控えます。消費ではなく貯蓄をするのです。そうなると、生産者が商品を作ったところで、売れません。商品が売れなければ、商品を作る仕事もなくなり、失業者が出てしまいます。

ところで、将来に不安があるというのは、将来、何が起きるか分からなすぎて不安になるということです。将来、何が起きるか分からないというのは、「不確実性が高い」ということです。この「不確実性」こそ、ケインズの理論の中核にあるものです。

将来の不確実性が高い時、人々は、貯蓄しておこう(貨幣を持っておこう)とします。言うまでもなく、貨幣を持っておけば安全だから、つまり、将来、何が起きても対処しやすいからです。

ここに貨幣の重要な意味があります。貨幣とは、つづめて言えば、将来の不確実性に対処するための手段なのです。

貨幣ばかり持ちたがるようになると、雇用が減る?

ケインズは、このように「貨幣」と「不確実性」とを結び付けて理解し、その理解の上に経済理論を構築したのです。これが、ケインズの理論の本質です。さて、将来に不安がある時、すなわち「不確実性」が高い時には、人々は、商品よりも貨幣を欲しがりますが、商品と違って、貨幣は、それを生産する雇用を生み出しません。だから、人々が貨幣ばかり持ちたがるようになると、雇用が減ってしまうというわけです。

それを、ケインズは次のように表現しています。

「言ってみれば、人々が月を欲するために失業が生ずるのである。-欲求の対象(すなわち、貨幣)が生産することのできないものであって、それに対する需要も簡単に抑制することができない場合には、人々を雇用することはできないのである。救済の途は、公衆に生チーズが実際には月と同じものであることを説得し、生チーズ工場(すなわち、中央銀行)を国家の管理のもとにおくよりほかにはないのである。」

将来に不安がある時は、人々は貨幣を持っておきたがり、消費をしようとしなくなるので、雇用がなくなる。そこで、貨幣を創造する中央銀行と政府が仕事を生み出して、雇用を作るしかない。

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