「角乗」東京・木場で受け継がれる伝統ワザの極意 保存会メンバーの林野庁幹部が20年続ける理由

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イベント池で練習に使う角材は、ふだんはロープで縛り、まとめた形でプールの真ん中に浮かしてある。練習開始前、黙々とロープを解き、角材を点検したり、長鉤の金具がきちんと固定されているかチェックしたりしている人がいた。会社員、宮下賢さん(44歳)、保存会の宮下實副会長の2男だ。

「私が物心ついた時には、もうおやじは川並の仕事をやめ、トラックの運転手になっていた。でも川並の体の動かし方については、いろいろと教わった。例えば、角材を縛っているロープを結んだり解いたりする時には、尻を落とすのではなく、腰を上げて行えと。そうすれば力が入るし、すぐに次の作業に移れる」

宮下さんは、長鉤の修理も実演して見せてくれた。刃先の金具をいったん抜いて、金具と竹竿の間に小さな割竹を挟み込み、再び金具を押し込んで固定する。タメ竿の竹に割れ目が見つかったら、使うのをやめ、修理用の竹材として利用する――。

角乗を継承する意味

10月のお披露目が終われば、集めて縛った角材の上に古い材木を重石として乗せ、角材が水面までしっかり沈み込むようにして貯蔵する。木は水の中であれば腐らずに貯蔵できるからだ。

川並の技を伝えていくことの意味は何だろうか。

「友人に角乗をやっていることを話すと、『えっ、それって何の意味があるの?』と聞かれることがある」と言う福田さんは、「職人たちが伝えてきた身体の動かし方を取得すること」に意味がある、と考える。「きょうみなが練習した技は、川並が使った技術の氷山の一角。その下には、角材を扱うための職人の仕事の技術がある。それは筏を組むとか、道具の手入れをするとか地道なことなんですね」

とはいえ、重い木材を川に流して運ぶ「流送」はなくなり、川並の仕事もなくなった。現在、角乗とともに、川並の仕事の技の一部がかろうじて伝えられているにすぎない。しかし、そこが重要なのかもしれない。

考えてみれば、あらゆる分野で身体を使う場面は減っている。それでよしとすれば人間の劣化は進んでしまう。もちろん、AIなどの技術により重労働が減るのはいいことだ。しかし、水や木といった自然との付き合い方を体で覚えることは大事。それは自然資源を賢く使って暮らすことに欠かせないからだ。

長鉤は、金具と竹竿の間に小さな割竹を入れ、固定する
長鉤は、金具と竹竿の間に小さな割竹を入れ、固定する(撮影:河野博子)
練習が終わった後のイベント池。真ん中にまとめられた角材が浮かんでいる
練習が終わった後のイベント池。真ん中にまとめられた角材が浮かんでいる(撮影:河野博子)
河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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