以上では、売上高や原価の総額の変化を見た。この変化が、売上高や仕入れの数量の変化によるのか、あるいは価格の変化によるのかは、以上で見た数字からはわからない。
ただし、売上高の増加率も、売上原価の増加率も、ほぼ10%程度だ。売上高や仕入れの数量が10%も増加したとは考えられないので、図表1、2に示す増加の大部分は、価格の上昇によるものと考えられる。
しかも、10%という数字は、企業物価の上昇率とほぼ等しい(2022年4月頃の企業物価の対前年比は、10%程度だった)。このことから推測すると、数量はあまり増えず、価格高騰によって売上高や原価が増加しているのだろう。
賃金は今後も上昇しないだろう
図表1に見るように、企業の業績によらず、賃金は大幅には引き上げられていない。とりわけ、 大企業の利益が著しく増加しているのに、賃金はさして上がっていない。このことが問題だとする見方が多い。
ただし、これは、これまでも見られた現象であり、今回が初めてではない。しかも、傾向的に賃金分配率(粗利益に占める賃金の比率)が低下しているわけでもない。それは、企業利益が落ち込むときにも、賃金はほぼ一定の水準に維持されてきたからだ。このことは、2020年にも見られた。企業利益が激減する中で、賃金はほぼ一定の水準に維持されたのである。
日本銀行は、賃金が安定的に上昇するようにならない限り金融緩和をやめないとしているが、賃金上昇率がこれまでの傾向から顕著に高まるような事態が起こる可能性は低い。だから、「賃金が上昇しないかぎり」というのは、「いつまでも金融緩和を続ける」というのと、ほぼ同義だ。
以上で見たように、価格高騰の影響は、企業規模によって大きな違いがある。苦しんでいるのは零細小企業だ。それに対して、規模の大きな企業は、原価を売上高に転嫁しており、業績は好転している。
歴史的な円安が問題だと言われながら、日銀は金融緩和政策を堅持するとしている。これは、大企業が円安で利益を得ているからだろう。
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