素材に関しても、当初は張り切って世界各地によい原材料を探しに行くのですが、最終的には、地元でこれまでおいしくないからと捨てられていた「がごめ昆布」に行きつきます。地域に根差した良質な素材を使ったアイテムは、コスメやスキンケア、フレグランスなど幅広く提案されています。コロナ禍においても人気で、数量限定のキンモクセイの香水を買うために予約が殺到、予約ができなかった人たちは早朝から各店舗に行列をつくっていました。
「SHIROの利益は社会のためのもの」と考える今井さんは、税金がまともに地域社会の幸福に還元されていないことに愕然として、「みんなのすながわプロジェクト」を立ち上げ、創業の地である北海道砂川市の活性化のためにも尽力しています。
地域で産出される素材を活かし、地域の人たちの幸せを考えながら、つくり手も納得し、購買者もときめく良質なビジネスを営む、という点において、次世代の「新しいラグジュアリー」の可能性を十分に秘めています。
生まれ育った地に根ざすマメ・クロゴウチ
地域愛に根差し、地域から離れても地域のコンテクストを大切にするという意味では、マメ・クロゴウチもユニークです。1985年生まれの黒河内真衣子さんが2010年に立ち上げたブランドで、2018年からパリ・ファッションウィーク(いわゆるパリコレ)にも参加しています。
長野出身の黒河内さんは、畑仕事をする家族の背中から、「おいしいもの、いいものをつくるには、時間と手間がかかる」ということを学びます。
マメの作品も、精緻な手仕事と最先端のテクノロジーを駆使した手間暇のかかったものです。ブランド設立10周年記念展覧会が長野県立美術館で開催されましたが、そこでは、黒河内さんが毎日こつこつと描きためていたこまめな自然のスケッチが、刺繍の柄に活かされていることも明らかにされました。
東京のプレスオフィスも、ファッション企業が多い青山や表参道ではなく、世田谷区羽根木にあります。羽根木の雰囲気は、長野の門前町の一角にも似ています。ブランドのローカル・アイデンティティを、自分が育ち、愛着を持つ長野に置く。東京オフィスも長野に似た場所を選ぶ。「クロゴウチといえば長野」と言われるまで徹底しています。
ローカルの自然環境からインスピレーションを得て、育った土地の記憶とつながる場所に基盤を置き、コミュニティを大切にしながら手間暇をかけて上質な作品をつくり上げる。そんな姿勢に、新しいラグジュアリーの担い手としての信頼感を覚えます。
以上、ごく一部ですが、日本発の「新しいラグジュアリー」の萌芽を紹介しました。それぞれの事業に、創業者の強い思い入れがあり、それゆえに支援者が購買者となり、生産者と購買者の垣根を超えたゆるやかなネットワークが形成されているのも共通しています。
こうした事業の芽を日本発の「新しいラグジュアリー」として育てていけるかどうかは、私たちがどのような方向へ社会を導きたいのかという意識にかかっています。生産者だけでなく購買者にもまた、自覚と成熟が求められそうです。
「文化と創造性に秀でた商品が入り乱れる」広大な世界市場において、日本からも十分、ラグジュアリービジネスに参入することが可能という一大チャンスが到来しているのです。
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