もう一つの改正点は、宗教法人から毎年度、役員名簿や財産目録、収支報告書といった最低限の書類を提出してもらう義務を課したことだ。信教の自由に触れる危険性があるため、活動報告のような書類の提出義務はなく、あくまで外形的な書類に限る。それらを通して、宗教法人が健全に活動していることを確認するという趣旨だ。
宗教法人法改正は、当時の文部大臣であった与謝野馨さんのトップダウンによる意思決定だった。大臣官房に法律改正チームをつくり、与謝野さんの秘書官だった私もチームに入って改正作業に携わった。
「提出された書類は、一切外に出しません」
――改正には宗教団体がかなり反発したと聞きます。
仏教もキリスト教も新宗教も、ほとんどの宗教法人が反対でした。創価学会も強く反発した。
文部省はオウム真理教の反省から宗教法人を野放しにするわけにはいかず、最低限の実態確認が必要だった。特定の宗教団体を狙い撃ちにしたものではなかったが、当時は自民党と新進党(現在の公明党)が敵対関係にあったから、自民党の一部の議員が創価学会攻撃のために宗教法人法改正を利用しようとした。それで文部省と創価学会との関係が悪くなった。
宗教法人法改正は前出の審議会にも意見うかがいをしたが、宗教法人からは「信教の自由に触れるのではないか」と批判の声が上がり、審議会は荒れた。当時の文化庁次長が最後には頭を下げて「なんとかこれを了解いただきたい。伏してお願いします」と言っていたのを覚えている。
その際、宗教関係者たちに「提出された書類は、一切外に出しません」と約束した。
――宗教法人法改正で提出が義務化された収支報告書などについて、東洋経済は過去に情報公開請求をして提出書類の開示を求めています。しかし、文化庁は書類の存否も明らかにせず、不開示としています。原因は改正時の「約束」でしょうか。
その通り。それに関しては私に責任がある。1999年に成立した情報公開法が国会に出されたとき、宗教団体の関係者が怒り出した。提出書類は開示しないという約束があったから法改正をのんだのに、提出書類が開示請求の対象になるとはどういうことだと。