家族ががん終末期、いつ介護休暇を取得すべきか 家族・弟で母親を看取ったAさんのケースを紹介

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チームのメンバーは、Aさん家族と、近くに住むAさんの弟の合計4人。このうち、司令塔となるのがAさんです。

母親の在宅療養が始まるときに会社に事情を説明し、在宅勤務に切り替えていたAさんは、家族が仕事と介護の両立を負担なくできるようにするためには、「仕組み作り」が必要だと考え、抜群の段取り力を発揮。

チーム4人が「より良い時間にする」という共通の目標に向かって動くべく、それぞれのスケジュールを把握して介護のシフトを組むことで、一人にかかる負担を抑えながら、母親との時間を大切にできるような体制を整えました。シフト交代時には、母親の状態について報告・連絡・相談を欠かさず、しっかり連携し合って見守ります。

もちろん、介護にはケアマネジャーやヘルパーなど、介護保険サービスによる介護スタッフの力も借りています。言わずもがな、医療の面では私たち在宅医療のチームが支えます。

Aさんは、家族というプライベートリソースと、介護保険や在宅医療というパブリックリソースをうまく組み合わせ、仕事をしながら母親をみる生活を実現していました。複数の人手があったことから、Aさんを含む家族みんなが、仕事と介護を両立することができていたようです。

死に向かう病状を理解する

同時に、母親の死に向かっていく病状への理解もありました。

終末期になると、家族には現実を“受け入れる力”も必要になってきます。Aさんは覚悟を決めたうえで、「どうやって看取るか」ということより「どうやって良い時間を過ごすか」ということに重きをおいて、物事を判断されているように見えました。

在宅療養の期間は1カ月ほどでしたが、Aさんの母親は家族みんなに見守られながら、穏やかに最期の時間を過ごせたのではないでしょうか。Aさん家族は、母親とお別れする悲しみのなかでも、どこか“やりきった感”があるように見えました。

残された時間に限りがあるとき、家族は「なるべく一緒に過ごしたい」と思うのは当然のこと。働いていれば、前回の記事(介護離職で心が不安定に…50代女性が復職した訳)でもご説明した介護休業制度を、「自分が直接介護をする期間にあてる」ために活用するという選択肢もあります。

介護休業制度は、労働者が家族を介護するために長期の休みを取れる制度で、介護が必要な家族1人につき、通算93日まで取得できます。本来は仕事と介護を両立できる体制を整えるための段取りにあてるものですが、時間が限られている場合には、休業期間を自分が介護をする期間として活用することを考えてもいいと思います。

がんの終末期はほかの病気と少し違います。次の図は、亡くなるまでの身体機能の変化について示したものです。

亡くなるまでの身体機能の変化
Lynn J. Serving patients who may die soon and their families. JAMA.2001;285:925-32より引用

この図からもわかるように、がんは、ぎりぎりまで身体の機能が維持できるものの、機能が低下し始めてから亡くなるまでの期間は、ほかの病気より短くなっています。

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