永守重信氏の「後継者難」に映る日本電産の泣き所 「優秀な外様」とは理想の親分子分関係を築けない

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永守氏に「理想的な上司と部下の関係は」と聞くと、「親分と子分の関係だ」と断言した。この考えは今も変わっていないようである。次期社長候補と見られている小部氏が、子分の筆頭格である。永守氏は職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)を卒業した後、音響メーカーのTEAC(ティアック)に勤めていた。同じ下宿に入居し、挨拶に来たのが小部氏だった。そして、こんな会話が。

永守氏:「君は大学生か。どこの大学だ」

小部氏:「職業訓練大学校です」

永守氏:「俺の後輩じゃないか。今日から俺の子分になれ」

永守氏が言う「親分子分」とは、親族と同等、もしくはそれ以上に強固な信頼に基づく絶対服従の主従関係を意味している。

永守氏が鬼の形相で部下を叱責している姿を見ると、永守氏と付き合いが浅い人の目には、単なるハラスメントに映るかもしれない。しかし、叱る親分と叱られる子分は、プライベートな事情までも熟知したうえで、お互い腹を割って会話できる上下関係にある。叱る内容には指導の要素が入っており、決して人を傷つけること、罵倒することが本意ではない。

しかし、この関係性は日本的なウェットな感性に左右されるのが特徴。それゆえに、心の奥深くまで入り込んで話す力と聴く力が求められる。さらに進化するには、以心伝心の技を、親分子分はお互いに身に付けなくてはならない。永守氏が「経営者はIQ(知能指数)だけ高くてもだめ。それ以上に高いEQ(感情紙数)が求められる」と言う所以である。このようなほぼ暗黙知化した親分子分の関係を築くには時間がかかる。

ユーモアの中にやる気を起こさせる含意がある

永守氏にインタビューをしたとき、ときどき奥さんを話題に持ち出した。その話を聞いていると思わず笑ってしまう。たとえば、こんな内容だ。

「グローバル戦略について経営会議をした後、夜遅く帰宅すると、ドアを開けた途端に女房が話しかけてくるんです。『今日、大根を……円で買って来たの。本当に得した』と。グローバル戦略から大根の話になり、がくんと落ち込みます。ですが、ここで『あほな話をするな。疲れているんだ』と言ってはいけない。『明日はもっと安い大根を見つけてこい』と一声かけるわけです。そうすると、女房のモチベーションは高まります」

これぞ、永守流ユーモア術である。ユーモアの中にやる気を起こさせる含意があるのだ。奥さんとは子どもの教育をめぐって意見が対立したそうだが、今もオシドリ夫婦として続いているのは、こうした永守氏の人心掌握術があったからだろう。永守夫妻の夫婦関係も親分子分の関係と同様に長い時間をかけて熟したのだろう。

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