「基本給5万円」の給与体系がまかり通るカラクリ 各種手当があっても賞与や残業代が抑えられる

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【沖縄で働くIさんの場合】
沖縄で働くIさんは、月給で、基本給が月5万円、職務手当が月9万円、通勤手当は徒歩圏内であることから支給ナシです。また、この他残業や休日出勤があれば時間外手当、休日手当が支給されますが、時間外手当などはありません。合計は14万円です。1日の所定労働時間は8時間、沖縄県の最低賃金時間額は820円です。
基本給5万円
職務手当9万円
通勤手当0万円
時間外手当0万円
合計14万円
1日の労働時間8時間
年間労働時間250日
最低賃金時間額820円

Iさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。

(1)支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。除外される賃金は通勤手当、時間外手当ですが、支給がありませんので、

14万円-(0万円+0万円)=14万円

(2)この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較すると、

(14万円×12カ月)÷(250日×8時間)=840円>820円

となり、最低賃金額以上で適正となります。

最低賃金か否かは地域によって異なります。最低賃金を下回っている場合は違法となります。

なぜこのようなことが起きるのか

戦後以降、日本では多くの会社が年功序列制度を採用していました。勤続年数に応じて基本給がアップする仕組みで退職金も「退職時の基本給×勤続年数×退職事由係数」という計算式をベースに算出する制度が大半でした。重厚長大型の歴史のある会社は基本給連動型の退職金制度となっているケースが多かったといえるでしょう。

基本給は働くうえでベースとなるお金であることは冒頭説明しました。その多くは会社ごとの裁量で決定されていると思います。基本給は法律で守られているため、一度設定すると簡単には下げられません。一方で各種手当は法律で守られているわけではありませんので、会社の裁量でカットが可能です。

会社が「総人件費を抑えたい」「給与をカットしたい」と考えた場合、カットできるのは手当です。基本給が低い場合、何らかの理由によって手当がカットされた場合、手取りが大幅に減ることになりますからリスクと考えられるでしょう。しかし、基本給の低さに明確な規定があるわけではありません。

労働者にとって基本給が低いことによるメリットは存在しません。とはいえ、簡単に基本給がアップするような時代でもありません。サカイ引越センターが労働組合の要求に対してどんな答えを出すか。日本の労働者の給与事情に一石を投じる事案となるかもしれません。

尾藤 克之 コラムニスト、作家、著述家

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びとう かつゆき / Katsuyuki Bito

東京都出身。議員秘書、大手コンサルティングファームで、経営・事業開発支援、組織人事問題に関する業務に従事、IT系上場企業などの役員を経て現職。現在は障害者支援団体のアスカ王国(橋本久美子会長/橋本龍太郎元首相夫人)を運営しライフワークとしている。NHK、民放のTV出演、協力多数。コラムニストとしても、「JBpress」朝日新聞「telling,」「オトナンサー」「アゴラ」「J-CASTニュース」で執筆中。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)、『即効! 成果が上がる 文章の技術』(明日香出版社)など著書多数。埼玉大学大学院博士課程前期修了。経営学修士、経済学修士。

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