「パンダの心臓疾患は珍しい」神戸の旦旦を襲う病 2022年5月に中国が専門家を派遣、今の様子は?

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最近は、主に赤ちゃんパンダの人工哺育に使う粉ミルク「PANDA MILK-10」を与えることもある(参照:『世界初パンダ専用ミルク「日本」で開発の深い事情』)。タンパク質や脂質などの栄養補給のためだ。栄養を補うために、中国で使用例のあるサプリメントを与えることも検討している。

成さんと王さんが来たことによって導入した検査やトレーニング、食べ物はないが、心機能を補助する薬を新たに取り入れた。薬は、強心薬、利尿薬、血管拡張薬を毎日、粉状にして、液体栄養剤やサトウキビジュースに溶かして与えている。

タンタンは小康状態

成さんと王さんが日本に滞在した約3カ月の間には、2人と島村准教授、王子動物園の職員が一堂に会して、タンタンの治療について話し合ったこともある。成さんと王さんはビザが切れるため、2022年8月4日に成田空港から帰国。その前日の8月3日午後、筆者は東京・上野動物園で偶然、成さんと王さんに出くわした。

気温36度で、少し歩けば汗が噴き出るほどだったが、2人は王子動物園の獣医師や上野動物園のパンダの飼育係と一緒に、園内を熱心に見て回っていた。

成さんと王さんはコロナ対策による中国国内での待機期間を終え、8月15日に四川省に到着した。2人はタンタンについて「発症から1年以上が経過するが、適切な処置により、いい状態を維持できている」と判断。「このまま現在の治療を続けてほしい」と望む。

島村准教授は「一時期、状態が悪くなり、薬で持ち直しました。その状態がずっと続いている小康状態だと推測しています。この1年数カ月の間、タンタンと付き合っている中で、画期的な変化はあまりなく、安定している状態です。

これからも激しく変化しない可能性が高いと考えていますが、いかんせん、はっきりわからないことが多い。王子動物園の飼育員さん、獣医師さんがよくがんばられています。皆さん慎重に見守ってくださっているところだと思います」と話す。

「この仕事をしていて大変だと思うのは、何がベストなのか、動物に聞けないことです。長生きだけがいいとは限りません。積極的な治療に踏み切ったほうがいいのか、現状を維持するほうがいいのか。飼い主は大変な決断を迫られます。タンタンの場合もそうだと思います」(島村准教授)

タンタンはあと2週間ほどで27歳になる。中国行きの期限は、上野動物園で生まれた5歳のシャンシャン(香香)と同じく、2022年12月末に迎える。

中川 美帆 パンダジャーナリスト

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なかがわ みほ / Miho Nakagawa

福岡県生まれ、早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(11カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)

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