天才の子どもが「大抵は天才じゃない」という真実 家系や血筋による遺伝だけで人は大成しない

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簡単に言うと、遺伝子は生物の特徴の先天的な側面で、エピジーンは後天的な側面ということだ。人というものは、どのように育てられるかと、自分が生活する環境、そして自分がその環境や自分自身をいかにコントロールするかがそれぞれの遺伝子の活性化(発現)に影響する。

確認しておこう。エピジーンは環境の刺激を受けて遺伝子的発達を促すトリガーである。神経科学者のギルバート・ゴットリーブが指摘しているように、私たちが成長するには、遺伝子と環境が連携しているだけではダメで、その連携が正しく機能するには、環境から遺伝子へのインプットがなければならない。何かを成し遂げたいと思ったときに、どのような自分になるかをコントロールできる可能性を提供するのが、エピジーンなのだ。

天才の多くは人並み外れて努力する

怠惰な天才なんて聞いたことがあるだろうか? ないだろう。なぜなら、天才というものは強迫観念に駆られているので、一様に勤勉なものだから。さらに天才は、公には、親からの遺伝(「天分」)よりも、自分自身の努力にはるかに高い価値を置く傾向がある。そのことを暗に示しているのが、以下に挙げる欧米の天才たち何人かの発言だ。

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「どれだけ努力すれば、それが成し遂げられるかがわかる程度であれば、人はそれを天才とは呼ばないだろう」(ミケランジェロ)。「今と同じか、今以上に努力が続けられなくなったら、私は意気消沈してしまうに違いない」(フィンセント・ファン・ゴッホ)。「天才は努力の結果である」(マクシム・ゴーリキー)。「週末があるなんて思わなかった。休暇があるなんて思わなかった」(ビル・ゲイツ)。「努力なくして才能もなければ、天才もない」(ドミトリ・メンデレーエフ)。

「才能ある人と、成功者を分けるのは、懸命の努力だ」(スティーヴン・キング)。「私は若い頃に必死で働いたから、今はそれほど必死で働かなくていいんだ」(モーツァルト)。「この世で、努力したことがすべて報われるとはかぎらないが、それでも何かを得たければ努力しなければならない」(フレデリック・ダグラス)。「1週間に40時間働いていただけで、世の中を変えた人など誰もいない」(イーロン・マスク)。「才能は神が与えてくださるものだ。でも、努力が才能を天才に変える」(アンナ・パヴロワ)。私もかつてはそう信じていた。

次回の記事でも、この議論を続けたい。(9月11日配信予定)

クレイグ・ライト イェール大学、ヘンリー・L・アンド・ルーシー・G・モーゼス名誉教授

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Craig M. Wright

学部生向けの人気講座「Exploring the Nature of Genius」(天才の資質探求)の講師を続けている。グッゲンハイムフェローであり、シカゴ大学から名誉人文学博士号を授与され、アメリカ芸術科学アカデミーの会員でもある。イェール大学の優れた学部教育に与えられるセウォール賞(2016)と優れた教育と学術に与えられるディヴェイン・メダル(2018)を受賞。イーストマン音楽院で音楽学士号を取得し、ハーバード大学でPh.D.を取得。

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