天才の子どもが「大抵は天才じゃない」という真実 家系や血筋による遺伝だけで人は大成しない

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この人たちは皆、突然出現している。アインシュタインは、家系は天才を予言するものにはならないことを暗にほのめかし、「家系を辿ったところで、どこにも辿り着かない」と言っている。

ポイントはここだ。天才は突然、そしてどうやら、人のさまざまな表現型 [遺伝子の組み合わせと環境の相互作用により、その遺伝子の組み合わせによる形態や特質の一部が目に見える形で現れる生物的特徴]の組み合わせ――なかでも、知性や立ち直る力、好奇心、洞察力ある思考、少しどころではない強迫的行動から、ランダムに出現するもののように思える。

心理学者はこれを「エマージェネシス(emergenesis)」と呼ぶ。私たちのような素人は「究極の状況」と呼んだほうがわかりやすいだろう。起こり得る可能性はあるのだけれど、そう滅多には起こらない、ということだ。

遺伝学の新潮流 エピジェネティクス

ゴルトンはグレゴール・メンデルの業績を知らなかった。遺伝子と呼ばれる遺伝単位について、私たちに科学的理解を授けてくれた天才だ。ゴルトンはまた、ハヴロック・エリスの著作『A Study of British Genius(イギリスの天才研究)』(1904)も知らなかったのかもしれない。女性のエリザベス1世(第3子)やジェーン・オースティン(第7子)、ヴァージニア・ウルフ(第6子)などのことは都合よく忘れて、天才はほとんどが男性第1子であることを、統計学的に示そうと企てた書だ。

今日、ゴルトン、メンデル、エリスの考え方が、生物学的決定論あるいは「生命の設計図」理論の基礎となっている。つまり、人の遺伝子は、それがテンプレートとなって、そこにその後の人生で発現する形態や性質がすべて、刻み込まれている、というものだ。しかし、お気づきの方もおられるだろうが、生前決定的な「設計図理論」は天才の答えになっていない。

おそらく、答えはエピジェネティクスと呼ばれる現代科学のなかにあるものと思われる。エピジーンは、私たちのゲノムの各遺伝子にくっついている小さなタグである。私たちの成長、誕生から死までは、これらの「オン/オフのスイッチ」の働きによる。なぜなら、それぞれの遺伝子が、その性質を現すか否か、現すならいつ現すかをコントロールしているのは、このスイッチだからである。

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