百ドル札の75%が米国に存在しない意外な理由 身近な決済手段だけど実は謎が多い「現金」

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米ドルの場合、大半が「休暇中」である。すべてのドルの約60%、すべての百ドル札の75%が国外で保有されている。アメリカの歴代の政権は、外国に「オンデマンド」で通貨を提供する政策を支持してきた。すなわち、人々が現地の銀行や両替屋でドルを買ったり引き出したりするのに応じて、現物のドル紙幣(おもに百ドル札)をその国々に送るのである。

海外にあるドル紙幣の割合は、1990年代には全体の流通量のほんの20%だったが、それ以降、着実に増加を続けている。アルゼンチンや旧ソ連圏諸国における国内通貨危機が大きな後押しとなり、1993年から2013年にかけて、アメリカはこれらの国々に対してだけで、年間約200億ドルも輸送した。

有名な話だが、アメリカはイラクにも軍用機でおよそ120億ドル(ひょっとしたら400億ドルもの額)を運び、政府の再開や基本的な公共サービスの復旧のための資金にあてた。物理的な規模で言えば、十億ドルを百ドル札で用意すると、パレット〔フォークリフト用の荷台〕10台が満杯になるほどの量である。

ドルには遠く及ばないものの、ユーロは海外流通量の多いもう一つの主要通貨である。

ユーロ紙幣も3分の1は海外

ユーロについての詳細なデータや研究は少ないが、発行された五百ユーロ札の70%をかつて流通させていたドイツ連邦銀行は、その3分の2が海外に流出していると推定していた。ドイツで印刷された紙幣の多くは南欧に行き着いていたかもしれない。南欧では、ドイツのXマークではじまるシリアルナンバーをもつユーロ紙幣が(たとえば、ギリシャ発行のYではじまるシリアルナンバーの紙幣よりも)信頼されているからだ。

ユーロ紙幣の3分の1は、ユーロ圏外、とくにロシアやバルカン諸国で流通していると考えられている。

外国での使用はたしかに重要だが、それは現金の所在に関する疑問の一部にしか答えていない。それも米ドルとユーロについてだけである。

しかも、調査結果からは、ほとんどの現金通貨に関して、その5~10%しか所在がわからない。残りのゆくえは闇の中である──中央銀行は、入ってくる紙幣をすべてチェックし、使い古されたものを交換する必要があるという事実がなければ。

この作業から、紙幣の使用状況についての有益な情報が得られる。アメリカ通貨教育プログラムによると、一ドル札の推定寿命はわずか5年強、他方で百ドル札は約15年だという。高額紙幣は小額紙幣よりも使用頻度が少ないが、金庫の中やマットレスの下で一生を過ごしているとも考えにくい。むしろ、高額紙幣は地下経済で流通しており、連邦準備銀行に出入りする機会が小額のお仲間よりも少ないというだけのことであろう。

ゴットフリート・レイブラント SWIFT社 元CEO

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Gottfried Leibbrandt

マッキンゼー・アンド・カンパニーの元パートナー。2012年から2019年まで、クロスボーダー決済ネットワーク、スウィフトのCEOを務めた。アムステルダム自由大学、マーストリヒト大学、スタンフォード大学ビジネススクールの学位を取得している。自称・決済オタク。ネットワークマニアでもある。

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ナターシャ・デ・テラン SWIFT社 元コーポレートアフェアーズ部門責任者

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Natasha de Terán

元ジャーナリストで、ウォール・ストリート・ジャーナル紙、タイムズ紙、フィナンシャル・タイムズ紙、『マネー・ウィーク』などに寄稿してきた。スウィフトの元コーポレート・アフェアーズ責任者、カーネギー国際平和財団のノンレジデント・スカラーであり、英国支払システム規制庁および金融サービス消費者パネルの委員を務めている。金融についてわかりやすく伝えることの重要性をかたく信じている。

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