政府は、その後、財源の問題を真剣に議論していない。そして、議論を「全世代型社会保障」に転換した。
2019年9月に「全世代型社会保障検討会議」の第1回会議を開催し、2020年12月に最終報告をとりまとめた。
ここには、「勤労者皆保険」の実現、子育て支援策など、子育て・若者世代に向けた「未来への投資」の構想が盛り込まれている。
「全世代型社会保障」は目くらまし?
全世代と言うのは、社会保障の受給者が高齢者に限られたものではないということを強調したいからであろう。
若い人に対する社会保障給付を増やすのは大事なことだ。しかし、仮にそれが実現できたとしても、社会保障制度が抱えている最も深刻な問題は、何も解決されることがない。
例えば、子育て支援によって出生率が高まったとしよう。それは、確かに日本経済の長期的パフォーマンスには重要な貢献をする。しかし、2040年ごろまでの日本を考える限り、経済には格別のプラスの効果を及ばさない。
仮にいま出生率が高まっても、その人たちは、2040年ごろには労働年齢に達しないからだ。だから、むしろ経済の重荷が増える結果になる。これは、「日本人は『出生率低下』の深刻さをわかっていない」(2022年7月10日配信)で指摘したとおりだ。
しかも、考えられている施策は、給付金などが中心だ。だから、人気取りには役立つだろう。しかし、本当に重要なのは、負担の増加や給付の引き下げなのである。
全世代を強調するのは、社会保障制度が抱えている基本的な問題から目をそらさせるための目くらましとしか考えようがない。
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