日経平均は8月が「戻りの限界」になる懸念がある 「2022年内3万円」までは届かないかもしれない

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その主な根拠は以下のとおりだ。6月中旬からインフレ懸念が後退したことなどにより、アメリカの10年国債の利回りは6月14日の3.478%から8月1日には2.571%まで低下した。直近では注目の7月26~27日のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げ幅が0.75%に落ち着いたことも、景気を腰折れさせることなく物価高を抑え込む「軟着陸シナリオ」がFRB(連邦準備制度理事会)の思惑どおりに進むとの安心材料になった。

いわゆるグロース株(NASDAQ市場などに上場する株式)は、とくに今年の1月以降、アメリカの10年国債利回りの上昇と逆相関している。それに伴って、グロース株中心のNASDAQ総合指数は6月16日の1万0646ポイントからから8月15日の1万3128ポイントまで約23%リバウンドしてきた。これは前述のように、アメリカ市場がインフレ懸念後退の期待を織り込んできたためだ。

アメリカ市場は金融引き締めを意識、日本株にも影響

だが、同国の10年国債の利回りは上昇に転じてきており、株価急騰もそろそろ一服すると見る。

NASDAQで見ても、年初の1月3日1万5832ポイントから6月16日の1万0646ポイントまでの下落率は約33%の暴落だった。ここから直近までは23%も上昇。3月の戻り高値1万4619ポイントから6月16日安値の1万0646の「半値戻し」1万2632ポイント水準も上抜けした。確かに「半値戻しは全値戻し」という相場格言はあるが、だからといって「強気相場入り」までは言いすぎだろう。

私は、今の相場は「あくまで弱気(ベア)相場のリバウンド(短期的な反発)にすぎない」とみている。アメリカ株の反発をみて、「まだしばらくはベアマーケットラリー(弱気相場の中の反発局面)が続く」という評論家や株式ストラテジストなどの声も大きくなっているが、私は、このラリーは6月中旬から始まった約2カ月の上昇で終わり、下落するタイミングが近づいているようにみえる。

前述のように、足元の日米などの株価はまだ高止まりする可能性もある。だが今後の市場は9月20~21日に開催されるFOMCでの利上げ継続・金融引き締め(QT)本格化を意識するとみており、ズバリ株価下落に転ずるとみる。日本株もアメリカ株下落の影響は免れず、いったんは下落に転じよう。

なお、株価の調整後は年末にかけて再度上昇に転じるとみている。ただ今回、年内の戻り高値の見通しについては若干引き下げたい。

これまで私は今後の日経平均株価のメインシナリオ(実現可能性70~80%程度)は「3月を今年の大底として、年後半上昇、年末3万円超」としており、基本は強気の見通しを継続してきた。最新の予想では「日経平均株価の戻り高値は年内2万9000円前後から3万円」に下方修正する。繰り返すが、主要な理由はアメリカ株の下落リスクの高まりなどによるものだ。

最後に中長期の目線でメッセージをお伝えしたい。日本株はアメリカ株と相対比較してバリュエーション(企業価値評価)も低く、また企業統治改革の余地も高いという点で、魅力的である点は変更ない。

今回は主に年末までの視点で市場を予測したが、ゆったりとしたスタンスで再度押し目買いを仕掛けるチャンスを待ちたい。日本株の明るい未来を信じて。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

糸島 孝俊 株式ストラテジスト

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いとしま たかとし / Takatoshi Itoshima

ピクテ・ジャパン株式会社投資戦略部ストラテジスト。シンクタンクのアナリストを経て、日系大手運用会社やヘッジファンドなどのファンドマネジャーに従事。運用経験通算21年。最優秀ファンド賞3回・優秀ファンド賞2回の受賞歴を誇る日本株ファンドの運用経験を持つ。ピクテではストラテジストとして国内中心に主要国株式までカバー。日経CNBC「昼エクスプレス」は隔週月曜日、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「日経ニュースプラス9」、ストックボイス、ラジオNIKKEIなどにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)。

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