自宅で父を看取った人の「やさしい5日間」の記録 小1と小5の子どもを連れて娘は実家に転居した

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家族3人と看取り士とで合唱した「故郷」

看取り士の乗本さん(写真:筆者撮影)

退院当日、歌が好きな父親のために歌おうと提案したのは、「看取りステーション奈良ほほえみ」で働く看取り士の乗本奈穂美さん。

1月上旬に智子さんの父親を訪ね、顔を近くまで寄せて話した彼女は、歌と卓球が好きだと聞き出していた。智子さんはその際に看取り士の派遣契約を結んだ。

乗本さんは介護施設での勤務経験があり、懐かしい唱歌なら父親世代の多くが歌えると知っていた。有名な「故郷(ふるさと)」を智子さんと母親との3人で歌うと、言葉が思うように出ない父親もうれしそうに、小さくうなずくようにして同じ拍子をきざんだ。

乗本さんは苦笑しながら振り返った。

5年前、智子さんの長男とカラオケ大会で楽しむ父親(写真提供:嶋田さん)

「軽度の認知症のお母さんが唯一、3番の歌詞まできっちりと覚えておられて、ビックリしましたよ。私も智子さんも2番の歌詞からすでにうろ覚えだったですから」

智子さんは夫1人を山梨の自宅に残し、ちょうど小学1年生になる長男と、5年生になる長女を連れて今春帰省。実家への転入届を出し、近くの公立校に2人を転校させた。認知症が進む父親を同じ病気の母親に老々介護をさせている後ろめたさがあった。

「父が逝けば、認知症の母1人を実家に残すわけにはいきません。もう今しかないと思って、決めました。長女も私の気持ちを理解してくれましたし、夫もとても快く私たちを送り出してくれました」(智子さん)

日本看取り士会の柴田会長は、コロナ禍で祖父母の看取りを依頼する20、30代が増えているとも話す。共働きの親の代わりに、幼い頃は祖父母に育てられた人たちが多いらしい。

「何事にも口やかましい親と比べ、無条件にかわいがってくれた祖父母への愛着も強い。看取り士についても何の偏見もない若い世代に、自宅で看取る文化の復活を予感しています」(柴田会長)

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