「事実と意見を混同する人」がなんとも危うい理由 ただの個人的意見を「根拠」にしてしまっている

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たとえば、個人的な意見を根拠として「今の若者はテレビを見ずにYouTubeだけ見ていると思うので、YouTubeに広告を出しましょう」などと主張するのは問題です。この場合には、若者によるテレビとYouTubeの視聴時間の差について調べてみるなど、きちんと事実を提示することが重要です。

ハンガリー出身の作家アゴタ・クリストフが書いた『悪童日記』(早川書房)という作品があります。この作品には、戦時下で食べ物もない大変な状況に置かれた双子の少年が、独学で読み書きを学び、さまざまな訓練をする姿が描かれています。

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物語は、ノートに書いた「作文」という体裁で書き進められています。ノートには意見(主観)を排除し、事実だけを書かなければならないというルールがあります。そうして事実だけを書く訓練を通じて、少年たちはリアリストに成長していくのです。

事実と意見の区別によって人間はどう変わるかを考える上で、非常に示唆に富んだ物語だと思います。

事実と意見を区別する習慣が身に付くと、ビジネスの場で会議を円滑に進行する能力なども備わります。「ここまでは事実ですね。では、ここからご意見をどうぞ」などと整理しながら発言を促すことで、仕事が円滑に回るようになることでしょう。

また、意見が対立したとき、「この事実だけは共有できますか?」などと事実を共有することを通じて、お互いの認識を近付けていけるようにもなります。

齋藤 孝 明治大学教授

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さいとう たかし / Takashi Saito

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著者、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』(岩波書店)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『質問力』(筑摩書房)、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『読書する人だけがたどり着ける場所』(SBクリエイティブ)ほか多数。著書発行部数は1000万部を超える。

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