「日産リーフ」より「テスラ」がEVの主役になった訳 イノベーションなんて誰も使いたがらない理由
牧:3つ目が、現状維持バイアスで、人はよりよい選択肢を示されても、現状に執着する。要するに、イノベーションなんて誰も使いたくないのです。いわゆる9倍効果で、利用する側は、提供する側が思っている便益の9分の1しか感じません。
このあたりの理論で言われていることを、実務家がわかりやすく理解できるように、事例を含めてまとめたのが、内田さんの本だと思います。
紙おむつの普及に時間がかかった理由
内田:ありがとうございます。やはり人間は慣れ親しんだものを変えることに、ものすごく抵抗があります。
本の中で紹介した事例ですが、以前、布のおむつから紙おむつに替わるときに、まことしやかに言われていたのが、紙おむつは赤ちゃんに愛情がない人が使うもので、布製を何度も洗って、柔らかくするのが親の愛情の証しだと。だから、最初はなかなか普及しませんでした。合理的に見れば、頻繁に紙おむつを替えたほうが、赤ちゃんも快適で、肌かぶれも起きないのですが、そこは理屈ではない。
同じような例が、介護分野にも当てはまります。これだけ働く人が不足して、要介護の高齢者が多い時代には、介護ロボットや外国人の力を借りたほうが、どう見ても合理的なのに、こと自分の親となると後ろめたい。今あるものを置き換えるのはすごく大変です。
逆に、パソコンやスマートフォンのように、今までなかったものがパッと出てくると、それほど抵抗なく移行が起こる。そうだとすると、自分が起こそうとしているイノベーションが何かを置き換えるものかどうかには、すごく気をつけないといけない。行動変容を起こすまでに時間がかかりますから。