イノベーションの成功確率は失敗の数が左右する 失敗への許容度は文化でなく制度設計の問題
仮説思考と科学的思考はどちらがイノベーションにふさわしいのだろうか。早稲田大学ビジネススクール(WBS)のゼミ生との研究成果をまとめた『イノベーションの競争戦略』の編著者である内田和成氏と、科学的思考法を学ぶ授業をベースにした『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』の著者である牧兼充准教授が、八重洲ブックセンター本店で、イノベーションについて2時間近く語り尽くした。今回はその前編をお届けする。
アカデミックの研究は本当に役立つのか
牧:アメリカのビジネススクールでは、イノベーションを教える人のバックグラウンドがこの10年で変わってきました。昔は技術経営や製品開発の研究者でしたが、今は行動経済学、行動科学の研究者が増えているのです。これは、良いアイデアを思いついても、ユーザーに使ってもらわないと意味がないことに、教育現場でも気づいているからです。
内田:私がWBSの教員になって気づいたのは、学者は「意味があることを示す」有意性を重視することです。ある説明変数で事象の6~7割を説明できても、統計学的な有意性の判定基準であるP値が10%を超えてしまえば、論文として高く評価されないし、おそらく発表もできない。
一方、ビジネスでは「予測や説明の当てはまりやすさ」を示す決定係数のほうが圧倒的に大事です。10回に1回間違えても9回合うなら、そのほうがよい。統計よりも、実際にお客さんに買ってもらってなんぼ。その肌感覚を持って論文に落とせるかが大事。だから、あえて言うと、結論ありき、感覚ありきでもよいと思っています。
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