イノベーションの成功確率は失敗の数が左右する 失敗への許容度は文化でなく制度設計の問題
内田:仮説を立てて検証するところは、たしかに昔と今では、難易度とコストが全然違いますね。昔はテストマーケティングに億単位のお金がかかり、マーケターは命がけでやっていましたが、今は時間もコストもかけずにウェブでABテストなどが簡単にできる。
ただし、それを論理的に整理できていなかったり、条件を揃えて一部だけAとBに変えるときに、CとDも変えて、何が成功要因だかわからないようなテストをやってしまいがちですね。そこをコントロールして実践するときに、牧さんの本はきっと役立つと思います。
牧:私の本で紹介した論文の中には、実務家からすると「この結論には違和感がある」と思うものも結構あると思います。一方で、いつも思うのですが、アカデミアの人のほうが、論文にいかに粗があるかもわかっているので、論文の結果を信じていない。だから、こういう論文は、より面白い仮説を思いつくためのデータベースとして使うとよいかもしれません。
イノベーションは失敗の数で決まる
内田:どういうイノベーションの見つけ方があるかという質問をよくされるのですが、方程式はないので、やってみないとわからない、というのが私の結論です。不確実性が高い中で、絶対的な答えが存在しないならば、答えを見つけるよりも、つくっていこうくらいに考えて、いかにトライ・アンド・エラーを増やせるかです。10回よりも、100回やったほうが成功確率は高いはずですから。そうなると、失敗を許容できるかどうかに尽きるかなと思います。
牧:私の本の中で、優れたパフォーマンスを出せる研究者にどのように研究費をつけるかを研究した事例が出てきます。5年間で中間審査をする場合としない場合で比較しているのですが、中間審査をしないほうがよいという結論が出ています。
というのも、中間審査で評価を得るために、リスクのない、つまらない研究ばかりになる。中間審査がないほうが、前半はチャレンジングな研究をたくさんして業績は出せないけれど、後半に大きなインパクトのある成果が生まれる。
したがって、失敗を増やすことは文化ではなく、制度として設計可能だということです。そういうアカデミックの知見がもっと実務に生かされればよいと思います。