塩野義コロナ薬「承認見送り」の審議に残る違和感 目立った「緊急承認」の制度趣旨との隔たり

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塩野義が当初設定した評価項目の1つ「症状改善」は、当時主流だったデルタ株で特徴的な12症状に合わせたもので、その後に流行したオミクロン株では有効性を示しにくくなった経緯がある。そのため塩野義は、12症状のうち現在主流のオミクロン株に特徴的な4症状と、それに発熱を加えた5項目で症状改善の有効性が示されたとする、事後解析のデータを提示した。

緊急承認制度では、現在の社会で必要とされる効果が期待できると見なされれば、特例的に認められる可能性がある。塩野義が事後解析のデータを提出したのは、そうした制度趣旨を理解したうえでの判断だった。

しかし、本来は因果関係がなくても「因果関係がある」と偶然に判定するリスクが増える事後解析を行ったことについて、ある委員からは「御法度だ」との厳しい意見まで飛び出した。

コロナ対応に当たる専門家が不足していた

緊急承認をめぐる審議は、最新の感染動向を重視した議論が行われるのがベストだろう。ある医療関係者は「新型コロナ対応の現場に立つ専門家が審議に不足していた。だから塩野義のデータについて深い議論ができなかったのでは」と疑問視する。審議では、参考人として呼ばれた感染症の専門家への質問もわずかにとどまった。

審議中には委員から塩野義に対する質問も出たが、申請会社は審議に参加できないため、PMDAの担当者や他の委員がその場で代わりに答えるシーンもあった。小野准教授は「(議論の充実を重視するのであれば)メーカーが審査に参加できるようにしてもいいのでは」と指摘する。

塩野義は9月末までの承認を前提に、2023年3月期の中間および通期の業績予想を公表している。8月1日の第1四半期決算発表でも従来の予想は据え置き、9月末までに第3相試験の速報値を提出する方針だ。ただ、株価は承認見送り前と比べ10%程度下落した水準が続く。

厚労省は、その速報値の内容次第では緊急承認される可能性は残るとしている。薬として認める以上、慎重な検証は当然欠かせない。ただ、緊急承認制度という立て付けの下、十分な議論が行われたかどうかは振り返る必要がありそうだ。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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