塩野義コロナ薬「承認見送り」の審議に残る違和感 目立った「緊急承認」の制度趣旨との隔たり

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まず審議会では、既存薬との代替性に乏しいとの見方から、「ゾコーバを緊急承認する必要がないのでは」といった意見が出た。

塩野義製薬のゾコーバと既存薬では、治験の対象者が大きく異なる(記者撮影)

国内では、新型コロナ用にアメリカのファイザー製とメルク製の経口薬がすでに認められている。どちらも60代以上の、重症化リスクが高い人が投与対象。そのため軽症患者は、解熱剤や鎮痛剤などのいわゆる風邪薬を服用して症状を抑えているのが現状だ。

確かにゾコーバはファイザーの薬と同じく、併用できない薬が多数存在する。妊婦や妊娠可能性のある女性に使用できない点でも、メルクの薬と同様の使用制限がかかる可能性がある。

だが塩野義は、既存薬と比べてより現状に即した治験を行っている。2つの既存薬の治験は、デルタ株の感染が広まる前の段階で、重症化リスクがあるワクチン未接種者を対象とした。一方、ゾコーバはデルタ株やオミクロン株の感染が広まった状況下で、重症化リスクの有無にこだわらず、ワクチン接種者を対象とした。塩野義の社員は「なぜ重症化リスクがある人向けとして議論が進んだのか」と首をかしげる。

効果の面でも、既存薬は「入院や死亡リスクの低減」に有効であるのに対し、ゾコーバが目指しているのは「症状の改善」での有効性だ。現状、症状の改善で有効性を示す経口薬はない。こうした既存薬との違いについて、当日の議論では深く触れられなかった。

ウイルス量の減少を評価する声も出たが…

薬事行政に詳しい東京大学の小野俊介准教授は、有効性を示すデータの不足という点で承認見送りには賛成とする一方、「緊急事態を踏まえ、ウイルス量の減少によるメリットとリスクのバランスを議論すべき場だったのに、減点方式(デメリットばかりが指摘されるかたち)で議論が進んだ」と指摘する。

一部の委員からは「ウイルス量減少により、隔離期間の短縮や、家庭内感染のリスクを減らせる効果があるのでは」と期待する声も上がった。さらに塩野義は今回、ゾゴーバ投与によって症状消失までの期間短縮や、「後遺症」と呼ばれる症状の軽減につながる可能性を示す新たなデータも提出していた。

だが、これらの有効性に関する深い議論はなされずじまい。多くの委員があくまで重視したのは、治験当初に設定した主要評価項目を達成しているかどうか、という点だった。

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