民衆を戦争へと鼓舞する指導者、無謀な作戦でも熱狂の渦に巻き込まれていく民衆…。『戦史』に描かれるのは、古代の出来事とは思えない、生々しくも普遍的な人間の姿だ。
降伏か、滅亡か
アテネ人:この討論には、冗長な演説は必要ないため、公衆の面前でおこなわれる必要はない。(中略)諸君らは自分たちの立場をより表明しやすくなったのではないだろうか。
我々が語り終えるのを待ち、各々の主張に対してまとめて反論する必要はない。反論したいときは、我々の言葉を途中でさえぎってもらってもかまわない。まずはこの方法に賛成するかどうか聞かせてほしい。
メロス人:お互いが文明的な作法で主張を展開し合うという方法は実に理にかなっており、我々もそれに反対するつもりはない。
一方で、諸君らが示す攻撃的な姿勢は、その提案と矛盾しているように見受けられる。それはすでに脅迫の域を超え、実行に移されているではないか。諸君らは我々の主張を吟味するために訪れたのだろうが、そこには2つの選択肢しか残されていないように思われる。
一方は我々が己の信念を貫いてこの討論に勝利し、降伏を拒否するという道だ。それは戦争を意味するだろう。もう一方は、我々が諸君らの主張に屈するという道だ。それは隷属を受け入れることにほかならない。
アテネ人:諸君らが未来を案じて我々の時間を浪費し、足元の問題から目を逸らして都市を救うための話し合いを放棄するのであれば、討論はここで終わりだ。目の前の問題に集中できるのであれば、話を続けよう。
メロス人:こういった状況に追い込まれると、人間はこのようなことを語ったり考えたりするものなのだから、どうかご容赦願いたい。とはいえ、これは我々の都市を救う方法について討論するための会合だ。諸君らが同意するのであれば、提案通りの形で討論を続けようではないか。
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