強国に襲われた国が援軍、運、希望信じた上の末路 抵抗か降伏か、現実主義者と理想主義者の討論

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(中略)

アテネ人:我々は部隊の配備をすでに終えており、メロスの現有戦力ではそれに太刀打ちできる見込みはない。それにもかかわらず、諸君らは実現する当てもない未来に希望を託している。

我々が去った後に、より賢明な選択をおこなうのでない限り、その考えは完全に非合理であると結論せざるを得ない。もちろん、目下のような屈辱的で差し迫った危険の渦中にあって、名誉を重んじるようなことがあれば、それは壊滅的な結果をもたらす可能性が高い。

多くの場合、目の前の危機をはっきりと認識できていたとしても、「屈辱」という言葉が持つ混じりけのない力によって、人々は破滅へと導かれる。

(中略)

それでも諸君らは慎重にふるまいさえすれば、そのような過ちは回避できる。強大な都市に対して妥当な条件で服従することはけっして不名誉なことではないし、貢納金を納める同盟国になれば、その領土を保持することもできる。

戦争か平和の二者択一であれば、敗北が目に見えているのに戦うなど馬鹿げている。繁栄する国とは概して、同等のものに対して譲らず、強き者に対してうまく立ち回り、弱き者に対して分別あるふるまいをする国のことだ。

諸君らの決断には祖国の命運が懸かっているということを肝に銘じて、我々が去った後、もう一度考え直すが良い。祖国は唯一無二だ。それは諸君らの決断ひとつで、救われることもあれば滅びることもある。

メロス人の結論

<語り終えると、アテネ人たちは席を立った。メロス人たちは話し合いの結果、当初の方針に従うことに決め、以下のように答えた>

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メロス人の結論:アテネ人諸君、我々は当初の宣言に従うことにした。つまり700年の歴史を誇る都市の自由を明け渡すような真似はしない。今日に至るまで都市を守り抜いてきた、神の摂理による救済を信じる。
また、復讐は人の手によってもなされるはずで、それはスパルタがやり遂げてくれるだろう。お互いが納得できる形で協定を結んだら、一刻も早くこの地を立ち去るが良い。

<以上が大筋においてメロス人が返答した内容だ。それに対してアテネ人は、去り際に次のように応じた>

アテネ人の返答:その決断から察する限り、諸君らは現実を見誤って不確定要素を過大に評価し、その実現を願うあまり、机上の空論を既成事実として扱ってしまっている。

そんなことをするのは世界でも諸君らだけだ。スパルタ、運、希望といったものに己の運命をゆだね、それを妄信したことで、取り返しのつかない失敗を犯すことになるだろう。

トゥキュディデス 歴史家

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Thucydides

(紀元前460年頃‐紀元前400年頃)古代ギリシアの代表的歴史家の一人。ペロポネソス戦争を扱った歴史書『戦史』の著者。ペロポネソス戦争が開戦した当初より、この戦争が史上特筆に値する大事件となることを見越して、歴史記述の作業に取りかかる。紀元前430年から2年あまりアテネで流行した疫病を生き抜き、生涯を『戦史』の執筆に費やした。

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