中国でブランド人気を決める「プロ消費者」の存在 メディアからの情報を多用する日本との違い

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日本の消費者に商品購入までのストーリーを教えてほしい、という話をすると、最初に出てくるのは「テレビで見て名前だけ知っていた」とか、「美容院で雑誌を読んで気になった」というような、マスメディアでの接点が多くなります。

そこから、実際に自分が購入しようとするとGoogleなどの検索エンジンで調べて、商品比較の記事を見てみたり、商品をおすすめする動画を見て理解を深めたりしながら、自分に合った商品を選んでいきます。

このような日本のファネル構造で一貫しているのは、「ブランド側の表現」があることです。トップファネルからボトムファネルに流れるまで、消費者には絶えずブランドが作ったメッセージが伝えられていく特徴が見られます。

一方、中国で同じように購入までのストーリーを話していただくと、トップファネルでは「自分の好きな芸能人がアンバサダーをしていて知った」「上海の大規模なイベントに周りの人が参加していた」など、日本とは違う接点が出てきます。

続いてミドルファネルでは、「KOL/KOCの比較記事や動画を見る」「詳しい友だちに話を聞く」などが挙がります。KOLとはKey opinion leaderの略で、インフルエンサーのことを指し、KOCはKey opinion consumerの略で、「プロ消費者」のような位置づけです。

購入に近づくボトムファネルは、「淘宝(タオバオ)」「京東(ジンドン)」といったECモールが入ってきます。日本でいう楽天市場やYahoo!ショッピングなどがイメージに近いでしょう。

中国にも百度(バイドゥ)という、Googleに似た検索エンジンは存在しますが、多くの消費者はそこで検索はしません。ECモールの中で商品を検索し、購入者の口コミを確認、その後、モール内にあるブランドの旗艦店で購入します。

中国のファネル構造の中では、日本のようなブランド側からの表現は中心になり得ません。どのフェーズでも中心なのは、「消費者側が表現」したコンテンツなのです。日中を比較すると各層のファネルが異なることが見えてくるはずです。

ファネル構造の違いが生む落とし穴

こうしたファネル構造の違いを知らず、日本でのマーケティングに慣れたままだと、次のようなスタンスでコミュニケーション戦略を立ててしまうケースを数多く見てきました。

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・顧客との接点は基本的にブランド側がコントロールできるものと思い込んでしまう
・コミュニケーションをテレビCMを中心に設計してしまう
・「計測可能」なメディアばかりに出稿し、細かくチューニングをすることで効果を高めようとしてしまう

このような前提で海外でブランドを届けようとすると、どれだけその商品やサービスが優れていても、現地の消費者とのコミュニケーションの段階で失敗してしまうのです。

日本でも当たり前のように行っている、「どんな情報を伝えるか」「どんな手段で伝えるか」に立ち返りつつ、各国の消費者のメディア接点を構造的に捉えることで、日本の海外マーケティングはより成功確率の高いものへと変わっていくはずです。

久保山 浩気 balconia shanghai Itd.総経理

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くぼやま こうき / Kouki Kuboyama

IMJ(現アクセンチュア)の事業部長として、日本のデジタルマーケティングに従事。その後、米系ブランディングファームのアカウンティングディレクターとして、米国のブランディング・マーケティングを経験。2015年より上海在住。balconiaには2017年の創業メンバーとして参画し、東京法人の戦略チーム、クリエイティブチームの管掌、および香港・上海法人の代表を務める。

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