中国BYDを侮る人は大波乱の条件をわかってない 日本参入、ゲームチェンジの歴史は繰り返すか

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これら8つの懸念点もいずれすべてクリアされ、日本人消費者も納得する時期が来るはず。しかしそれには普通に考えるとこれから少なくとも5年はかかるのではないかというのが私の予測です。

ではメイド・イン・チャイナのEVが日本市場で劇的に売れるようになるきっかけはいつ来るのでしょうか。アメリカ市場での日本車の躍進がオイルショックをきっかけとしたように、実は今、日本市場でも興味深い変化が起きています。それがガソリン価格の高騰する中で、日産が発売した軽EV「サクラ」が売れているという新しい事実です。

EVはそもそも航続距離のニーズを満たすためには大きな蓄電池を搭載する必要があり、結果的に電池の性能の制約から大きめの乗用車から市場投入されてきました。ところが消費者ニーズとしては軽自動車や小型車のほうがEVにしたいというニーズは大きいのです。

特に郊外から田舎にかけての地域では軽自動車や小型自動車は2台目需要として売れています。1台目はSUVのような大きな車で航続距離も重要ですが、2台目は近所に買い物に出かけたり、通勤に使ったりするのが主な用途なので、実は航続距離は短くて構いません。

私がBYDの3種類の製品ラインナップを見て、小型車のドルフィンを買うだろうという直感もその理由からです。私も自動車は2台持ちで、長距離ドライブ用にはスバルのレヴォーグ、近距離用にはトヨタのヤリスを使っています。手ごろなEVを買うならまず小型車から買いたいと思うのです。

1日に乗る距離が決まっているなら

小型車や軽自動車のユーザーにとってEVに求めるものは手軽さです。日産のサクラの場合、夜の間に充電しておけば朝になればその日に乗るぐらいの充電は十分に済んでいる。1日に乗る距離はせいぜい50km以内なので航続距離に不安を感じることも基本的にない。そしてここが重要なのですが、EVの燃費はガソリン車と比べてずっと安いのです。

ちょうどこのサクラ人気のタイミングでBYDが日本市場に参入したわけですが、実際にBYDのラインナップのうち小型車のドルフィンがサクラの上位競合として商品スペックがちょうどよいのです。もし中国市場と同じように日本市場でも200万円を切る値段で市場投入されたらサクラよりも安くなるかもしれない。そこでメイド・イン・チャイナのEVが日本製のEVよりも日本市場で支持されるきっかけが生まれるかもしれません。

「歴史は繰り返す」ものです。かつてメイド・イン・ジャパンがアメリカの自動車市場を変えたように、メイド・イン・チャイナが日本市場を変える歴史はやがて始まると予想します。そして今回のBYDの日本市場参入はその始まりを告げる大ニュースだったと後世に呼ばれるような大事件だったのかもしれない。私はそう思うのです。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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