「ストレンジャー・シングス」が救うNetflixの危機 「オタク」「80年代」が13億時間視聴を生み出した

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改めて最新作シーズン4の視聴時間をみると、5月27日の配信開始から累計視聴時間は13億時間を達し、現在、Netflix英語のテレビシリーズ歴代TOP10の1位の座に「ストレンジャー・シングス」がいます。2位の「ブリジャートン家」を大きく引き離し、Netflixで最も視聴されている英語コンテンツとなっています。

加えて、過去シーズンも人気を押し上げています。シーズン4が配信開始されてから、週単位集計のTOP10にシーズン1から3までそれぞれ毎週ランクインし、シーズン3においては英語テレビシリーズ歴代TOP10にも入り、5億時間以上視聴されています。

分割リリースによる「待たせる戦法」

これらの数字はNetflixが視聴時間のランキングを2021年11月から公表して以降、人気作の目安となっています。億単位の数字を生み出すために、シーズン4はこれまでのシリーズにはない手法まで取っています。第1部を5月27日に、第2部を7月1日に公開する“分割”リリースを実施し、待たせる戦法によって、何週間にもわたりSNS上をにぎわせて視聴を促していったのです。

「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シーズン4の成長したイレブン(写真:Netflix)

またNetflixの有料会員数が落ち込むアメリカにおいても「ストレンジャー・シングス」効果を発揮しています。ニールセンの発表によると、アメリカにおけるNetflixのテレビ視聴シェアは6月に過去最高の7.7%を記録しました。まさに「ストレンジャー・シングス」が盛り上がった時期と重なります。

Netflixによれば、2021~2022年はアメリカでどの動画配信サービスよりもテレビ視聴時間を集め、その数字は2大テレビネットワークの合計にほぼ匹敵するとのこと。つまり、いかに作品が見られているのかという利用率の高さを強調しています。視聴時間を延々に伸ばす「ストレンジャー・シングス」はNetflixにとって優等生的な存在なのです。

狙いどおり成功したことで必要以上に満足したのか、ヘイスティングスCEOは7月19日の決算発表時に新たに導入予定の広告付きプランについて触れながら、「リニアテレビ(テレビ放送)は今後10年以内に、あるいはもっと早く、間違いなく終わるだろう」と、挑発的な発言まで残しています。「ストレンジャー・シングス」は危機を救うどころか、自信までつけさせている様子です。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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