数学の「確率」がギャンブルから生まれた理由 「だまされない」スムーズな意思決定で差がつく
このケースのように正確に期待値を計算できることは実際のビジネスシーンでは少ないかもしれません。しかし、確率に関するこうした基本的な素養を欠くと、相手に有利な条件を知らず知らずにのまされることも多いのです。
異常値にだまされるな
ある出版社の書籍出版局に勤めるベテラン編集者のAさん。過去数年の実績から、Aさんはおおむね30%の確率でヒット作を出します。ところが今年に入って担当した作品が2作立て続けにヒットしました。
上司であるあなたから見て、Aさんの能力が急に上がったようには見えません。他の同僚も同意見です。さて、次にAさんが担当する書籍のヒット確率はどう見積もるべきでしょうか。
これにはさまざまな考え方がありますが、皆の目から「Aさんの能力はあまり変わっていない」と見えたのであれば、30%と考えておくのが無難でしょう。つまり、2つ連続で当たったのは偶然で、結局長くやれば実力通り30%のヒット率に回帰するという発想です。
例えばコインを振るという単純なケースでも、表(あるいは裏)が続くケースはあります。しかし長くコインを振っていれば、結局は裏と表の出る確率はそれぞれ2分の1になります。これが大数の法則です。
この法則を端的に言えば、試行回数が少ない場合には異常値が出ることがあっても、試行回数を増やせば結局は「真の確率」に近づくということです。
この事象が観察されるのが、プロ野球の打率などです。よくシーズン序盤の4月頃まで4割という高い打率をキープする選手が出ることがあります。それを見て「春先は好調な選手が多い」などと言う人がいますがそれは錯覚です。単に試行回数が低いが故の異常値なのです。
たとえば実力が打率2割5分の平凡な選手であっても、シーズン初戦、1試合4打数のみの試行数であれば、各打率の確率は以下のように計算されます(なお、7割5分、5割、2割5分のケースで、最後にそれぞれ4、6、4を掛けている意味がわからない人は数学力に問題ありなので、要確認です)
7割5分:0.25×0.25×0.25×0.75×4=4.7%
5割:0.25×0.25×0.75×0.75×6=21.1%
2割5分:0.25×0.75×0.75×0.75×4=42.2%
0:0.75×0.75×0.75×0.75=31.6%
仮に天変地異が起こってシーズンが1試合で終わってしまったら、平凡な打者の彼であっても、5割以上の打率となる可能性が0.4+4.7+21.1=26.2%もあるわけです。これが試行回数が少ないことの罠です。
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