泥沼の戦争で糾弾の政治家が民衆を高揚した言葉 ペロポネソス戦争の記録が教える普遍的な教訓

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そもそも帝国を築くこと自体が過ちだったのかもしれないが、今さらそれを手放すことには大きな危険が伴う。市民がこの問題と向き合うことを避け、それに他者まで巻き込むようなことがあれば、国家はたちまち崩壊するだろう。

内心ひそかに自分だけ助かろうと考えるのも同じことだ。1人の人間が責任を放棄してしまえば、それを補うために別の人間の支えが必要になる。そんなことでは帝国を維持することなど不可能で、その場合は服従を受け入れ、隷属に耐えるほかない。

他国からの反発は、不滅の栄光を手に入れる代償

そのような忠義に欠ける市民に動揺させられてはならない。また、そもそも諸君らは戦争に賛成の票を投じたのだから、わたしに腹を立てる資格はない。

要求に従わないと決めたことに対して敵国が示した反応は予想通りだったが、目下の疫病は誰も予想し得ないことだった。

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この疫病のために諸君らはますますわたしに腹を立てることになったが、それは公平ではない。そうであるならば、物事が突如として上向いた場合には、それをわたしの功績としてもらわなければ筋が通らない。

我々は天が命ずるところを受け入れ、敵に対しては勇気を持って立ち向かわなければならない。それが都市の流儀なのであり、今さらそれに従わない道はない。

アテネが世界で最も偉大な名声を誇るのは、どんな状況にも屈することがなく、戦争に対してどの国よりも兵の命と労力を捧げてきたからである。

そうやって我々は世界史上でも類のない強大な力を築き上げたのであり、いつか滅びたとしても(すべては滅びゆく運命なのだから)、未来の世代はそれを永遠に記憶するだろう。

前回:平和を望むはずの人々を戦争に突き動かした言葉(7月20日配信)

トゥキュディデス 歴史家

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Thucydides

(紀元前460年頃‐紀元前400年頃)古代ギリシアの代表的歴史家の一人。ペロポネソス戦争を扱った歴史書『戦史』の著者。ペロポネソス戦争が開戦した当初より、この戦争が史上特筆に値する大事件となることを見越して、歴史記述の作業に取りかかる。紀元前430年から2年あまりアテネで流行した疫病を生き抜き、生涯を『戦史』の執筆に費やした。

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